はじめに
ある市場において、独占が生じていると、企業は高めの価格を設定し、完全競争の場合には発生しないような利潤を得ようとするため、市場は効率的ではなくなります。
このような状況はよくないため、通常考えられるのは、政府による規制でしょう。
独占禁止法のような独占自体を問題視するものから、独占はやむを得ないとして価格などを規制するなど、様々な形で、独占を抑制したり、独占的に企業が行動しないように、政府は規制を行う必要があります。
ところが、このような規制がなくとも、企業が独占的に行動しないような状況があるとするのが、「コンテスタビリティ理論」(contestability theory)です。
コンテスタビリティ理論
コンテスタビリティ理論においては、既存企業と新規参入企業を考えます。
既存企業においては、費用において、規模の経済が働いており、独占が生じているとしましょう。
その上で、次のような条件を想定します。
①既存企業と新規参入企業では、同じ費用関数を有している
②企業は参入や退出がいつでも自由である
③参入・退出にあたり発生する費用はない
(費用が発生しても、それを後には回収でき、サンク・コストは発生しない)
④新規参入企業が参入したとき、既存企業はそれに対応するのに時間がかかる
このとき、
「独占的な既存企業は、完全競争の場合と同様に価格を設定し、効率的な状況が生じる」
というのが、コンテスタビリティ理論です。
ポイント
この理論自体は、
「独占企業であっても、すぐに参入が生じて、独占的でなくなるような状況では、独占企業は独占的には行動できない」
という常識的なことを言っているように思いますし、その通りでしょう。
ただ重要なのは、上記の条件です。それぞれの条件の意味を考えてみましょう。
①の条件がなく、既存企業のほうが有利な費用関数ならば、新規参入企業は既存企業に勝つことはできず、市場に参入することはないでしょう。逆に、新規参入企業のほうが有利な費用関数ならば、新規参入企業が既存企業にとって代わり、独占企業になることになります。この点で、同じ費用関数という条件が必要になります。
②の条件は、簡単に参入・退出できなければ、参入自体が難しかったり、退出しにくければ、新規参入企業は参入に躊躇するでしょう。
③の条件は、②の条件とも絡みますが、非常に重要な条件です。参入障壁の1つとして費用が挙げられますが、このような費用が発生しないため、簡単に新規参入企業は参入できることになります。また、退出に大きな費用がかかれば、それを織り込んで新規参入企業は参入を考える必要があり、参入にあたってのコストになります。
これらの条件から、既存企業が独占的に行動していても、その独占利益を狙い、新規参入企業が市場に参入することになるので、既存企業は独占的に行動できなくなります。
ただ、④の条件がなければ、新規参入企業が参入をしようとしたとき、既存企業はすぐに対応できるので、新規参入企業は参入を諦めることになります。対応に時間がかかるからこそ、新規参入があるような状況が生まれます。
最後に
コンテスタビリティ理論における条件を見たとき、非現実的で、このような条件を満たす市場は存在しないと言えるでしょう。
とはいえ、独占企業が存在しても、政府の規制なしで、効率的な市場が実現できるという可能性を示した点で重要です。
また、ネットなどの進展から、上記の条件を満たしやすい状況が生まれており、その意味でも、意義のある理論と言えると思います。
参考
奥野正寛・鈴村興太郎『ミクロ経済学Ⅱ』
小塩隆士『公共経済学』
清野一治『規制と競争の経済学』