概要
企業行動において、完全競争の場合に比べて、独占企業は生産量を少なくして、価格を引き上げ、この結果、消費者に不利益をもたらすことになります。
企業の利益を$\pi$、価格を$p$、生産量を$x$、費用関数を$C(x)$とすると、企業の利潤関数は、次のようになります。
$\pi = p x \; – \; C(x)$
完全競争でしたら、企業は次のように、「価格=限界費用」となるような水準で生産を行います。
$p = C'(x)$
しかし、独占企業においては、生産量を調整して価格もコントロールすることになるので、利潤関数は
$\pi = p(x) x \; – \; C(x)$
となります。価格はパラメーターではなく、生産量に応じた関数となっています(なお、$p'(x)<0$で生産量が多くなるほど、価格は低下します)。
このとき、独占企業は次のように、「限界収入=限界費用」となるような水準で生産を行います。
$p'(x) x + p(x) = C'(x)$
この結果、価格は
$p = C'(x) \; – \; p'(x) x$
となり、完全競争に比べて、($p'(x)<0$なので)$p'(x) x$だけ高くなることが分かります。
限界費用価格規制
このように、独占市場においては、価格が高くなり、消費者に不利益をもたらします。
そこで政府が規制を加えるとしたら、どうしたらいいのでしょうか。
完全競争の場合を考えれば簡単で、独占企業に対して、限界費用と等しい価格にするように規制を加えることです。
このように、独占企業に「限界費用=価格」となるように規制を加えることを、「限界費用価格規制」と言います。
問題点
考え方としては、分かりやすく単純ですが、限界費用価格規制には、いくつかの問題があります。
①限界費用が分からない
政府が独占企業の限界費用を把握できるのかという問題があります。独占企業にしても儲からなくなるので、隠蔽などのインセンティブが働くことになるでしょう。
ですので、現実的には、独占企業の限界費用について政府は分からず、このような規制は難しいです。
②独占企業は赤字になる
なぜ独占が発生するかと言えば、その1つのパターンとして、規模の経済が挙げられます。
企業が生産量を増やすほど、費用は逓減していく場合には、いくつもの企業が生産を行うよりも、1つの企業が生産を行ったほうがよいため、独占が生じます。
ここで、規模の経済を定式化すると
$C'(x) < 0$
となります。
ですので、限界費用=価格とすると、企業の利益は次式のようになり、第1項・第2項ともにマイナスなので、利益が赤字になることが分かります。
$\pi = C'(x) x \; – \; C(x) < 0$
これでは、この独占企業は存続ができません。
③赤字補填をする
このように独占企業は赤字なので、限界費用価格規制を行いながら、この赤字を政府は補填するということが考えられます。
ただ、この赤字を負担する人が必要になるので、社会的に望ましいとは言えません。
また、企業としても赤字を出しても政府が補填してくれるので、効率的な運営をするインセンティブが働かないことになります。
平均費用価格規制
上記のように、限界費用価格規制はいくつかの問題を有しています。この解決策の1つとして、「平均費用価格規制」というものがあります。
平均費用価格規制では限界費用ではなく、価格を平均費用に等しくなるように規制するというものです。式で表すと、次のような形です。
$p = \dfrac{C(x)}{x}$
この形ならば、企業の利潤関数は、
$\pi = \dfrac{C(x)}{x} x \; – \; C(x) = 0$
となり、赤字は出ません。
平均費用価格規制は、限界費用価格規制に比べて緩い形ですが、独占企業は赤字にならず、政府も赤字補填が不要など、次善策としては考えられるものです。
ただ、企業としては、効率化を図ろうというインセンティブがないという問題があります。効率化を図り費用を下げれば、価格が引き下がるだけだからです。
参考
畑農鋭矢・林正義・吉田浩『財政学をつかむ』
奥野正寛・鈴村興太郎『ミクロ経済学Ⅱ』