はじめに
ミクロ経済学においては、一般的に、一定の所得のもとで、財の消費を増やし、効用を最大化するとされています。
これはこれで変な話ではありませんが、ふと考えると、これは逆にも考えられることに気づくはずです
すなわち、
「一定の効用のもと、費用を最小化すればいいのでは」
と。
通常の消費者行動では、所得を一定にして、効用を変化させるのですが、逆に、効用を一定にして、費用を変化させたらどうかということです。
この発想のもとに展開されるのが、補償需要関数と支出関数といった話です。
この補償需要関数と支出関数について、説明したいと思います。
費用最小化問題
2財$ x_1 , x_2$あるとして、それぞれの価格を$ p_1 , p_2$とします。
そして、効用を$ U$とすると、次のような問題を考えることができます。
$ \displaystyle \min_{x_1 , x_2} p_1 x_1 + p_2 x_2$
$ s.t. \quad U(x_1 , x_2) = \bar{u}$
ここで、注意が必要なのは、効用が一定$ \bar{u}$である点です。
これを解くため、ラグランジュ乗数$ \lambda$を用いて、定式化すると
$ L = p_1 x_1 + p_2 x_2 – \lambda(U(x_1 , x_2) – \bar{u})$
となり、1階の条件は、次のようになります。
$ \displaystyle \dfrac{d L}{d x_1} = p_1 – \lambda U_1 = 0$
$ \displaystyle \dfrac{d L}{d x_2} = p_2 – \lambda U_2 = 0 $
$ \displaystyle \dfrac{d L}{d \lambda} = U(x_1 , x_2) – \bar{u} = 0$
そして、これを解くと、
$ \displaystyle \dfrac{U_1}{U_2} = \dfrac{p_1}{p_2}$
が得られます。
これは、通常の効用を最大化した場合の条件と同じになることが分かります。
補償需要関数
費用最小化問題における需要関数を考えると、財の価格$ p_1 , p_2$と一定の効用$ \bar{u}$のもと、需要を決定するので、次のような関数を定義することができます。
$ x_1 = D_1^u(p_1 , p_2 , \bar{u})$
$ x_2 = D_2^u(p_1 , p_2 , \bar{u})$
通常の効用最大化の場合とは異なり、需要関数には$ \bar{u}$が入っているため、これは「補償需要関数」(ヒックスの需要関数)と呼ばれます。
支出関数(補償所得関数)
この補償需要関数のもとで、支出額$ m$がどれだけになるかを考えると、
$ m = p_1 D_1^u(p_1 , p_2 , \bar{u}) + p_2 D_2^u(p_1 , p_2 , \bar{u})$
となります。この式を見ると、$ c$は、$ p_1 , p_2 , \bar{u}$で決まるため、次のように整理できます。
$ m = E(p_1 , p_2 , \bar{u})$
これを、支出関数(最小費用関数、補償所得関数)と言います。
ポイント
ここで、消費者行動について、通常の効用最大化と違うアプローチをしたが、結局はどうなんだという点です。
これを明示するため、需要関数と補償需要関数を比較してみましょう。
効用最大化 | 需要関数 | $ x_i = D_i^u(p_1 , p_2 , m) \quad (i=1,2)$ |
費用最小化 | 補償需要関数 | $ x_i = D_i^u(p_1 , p_2 , \bar{u}) \quad (i=1,2)$ |
似ていますが、通常の需要関数では関数に所得$ m$が入っているのに対して、補償需要関数ではその代わりに$ \bar{u}$が入っています。
このように、同じ消費者行動を考えるのですが、アプローチが異なると、少し違った結果になります。
そして、「双対性アプローチ」ということで、この違った結果を結びつけることもできたりします。
参考
奥野正寛(編著)『ミクロ経済学』
武隈愼一『ミクロ経済学』