はじめに
ミクロ経済学における消費者の選好について、いくつかの仮定が置かれます。
しかし、その際に、
「選好について、辞書式順序は採用されない」
「辞書式順序だと、連続性の仮定が満たされない」
という話が出てきたりします。
ただ何となく、言葉自体が難しい言い回しで、イメージがつかない感じがするのではと思います。
そこで、辞書式順序について、例を挙げて説明するとともに、なぜ連続性の仮定が満たされないかを説明します。
辞書式順序
辞書式順序の説明をするにあたり、まずは選好について、定義をしておきます。
xのほうがyよりも好ましいとき x > y
xとyが無差別のとき x = y
このとき、辞書式順序とは、2つの点(x* , y*)と(x1 , y1)があるとき、次のように、選好が決まるものです。
① x1 > x* ならば、(x1 , y1) > (x* , y*)
② x1 = x* ならば、(x1 , y1) > (x* , y*)
これではイメージがしにくいと思うので、会社の採用を例として考えましょう。
採用にあたっては、試験と面接で、その会社は応募者を採用するかどうかを決めるとします。
このとき、面接で点数がより高かった者は試験の点数とは無関係に採用し、面接の点数が同じである者は、試験の点数で選ぶというのが、辞書式順序となります。
具体的な数字例で考えましょう。
応募者がA~Cの3名おり、2名だけ採用するものとします。このとき、面接と試験の点数は、次表のような結果になったとします。
面接の点数 | 試験の点数 | |
---|---|---|
応募者A | 80 | 30 |
応募者B | 50 | 70 |
応募者C | 50 | 40 |
面接と試験の点数で、応募者を順序づけると、次のようになります。
面接:応募者A > 応募者B = 応募者C
試験:応募者B > 応募者C > 応募者A
上記のルールを考えると、
・試験の点数に関係なく、面接の点数が重要視されるので、応募者Aが採用
・面接の点数が同じ場合には、試験の点数で比較するので、応募者Bが採用
となります。
連続性の仮定について
辞書式順序の場合には、連続性の仮定が満たされないと言われます。
連続性の仮定とは、集合$u(\textbf{x}) \, , \, v(\textbf{x})$について、共に閉集合であるというものです。
そして、閉集合とは、境界線がある状態のことです(ちなみに、境界線がない場合は、開集合と言います)。
ここで、上記の辞書式順序に基づいて、グラフで集合を見ていきましょう。
まず、1つ目のルール
① x1 > x* ならば、(x1 , y1) > (x* , y*)
について、グラフにすると、次のようになります。x*の右側の灰色部分が(yに関係なく)すべて選好されます。
次に、2つ目のルール
② x1 = x* ならば、(x1 , y1) > (x* , y*)
について、グラフにすると、次のようになります。x*とx1が等しいときには、yの値で決まるので、y*よりも高い太線部分が選好されます。
そして、この2つのルールをまとめると、次のようなグラフになり、辞書式順序のもとでは、灰色部分と太線部分が選好されます。
グラフから明らかなように、x*における線について、境界線がない点線があり、辞書式順序のもとでは、閉集合とはならないことが分かります。
最後に
経済学的には、辞書式順序の話は、選好の仮定に関する部分で登場するくらいで、他ではあまり出てこないので、あまり重要ではないかもしれません。
ただ、何となく気になるけど、よく分からないという方のために、参考になればと思います。
参考
奥野正寛(編著)『ミクロ経済学』
西村和雄『ミクロ経済学』