はじめに
ミクロ経済学において、消費者行動の次に出てくるのが、企業行動(生産者行動)の分析だと思います。
完全競争下で、企業はプライステイカーとして、どのように行動するかを見ていくことになります。
ただ、教科書的にはグラフが出てきて、逆に分かりにくい面があるようにも思います。
そこで、ここでは、企業行動の基本モデルについて、数式だけで説明します。
モデル
完全競争市場において、企業は価格$p$のもと、費用関数$C(x)$で財を$x$生産するものとします。
この企業の利潤関数を$\pi$とすると、企業は
$\pi = px \; – \; C(x) \cdots (1)$
を最適化することになります。
そこで、この式について、$x$で微分すると、
$\displaystyle \dfrac{d \pi}{d x} = p \; – \; C'(x) = 0$
から、次を得ることができます。
$p = C'(x) \cdots (2)$
性質
上記のモデルから、完全競争下の企業行動としては、次のような性質があることが分かります。
命題1
$(2)$式において、$C'(x)$は限界費用なので、
「企業が利潤最大化を行うとき、限界費用と価格が等しくなるような生産量を選ぶ」
となります。
命題2
この企業について、平均費用$C(x) / x$を考えます。
平均費用が最低となる水準を見るため、平均費用を生産量$X$で微分すると、
$\displaystyle \dfrac{d (C(x) / x)}{d x} = \dfrac{C'(x) x \;- \; C(x)}{x^2} = 0$
が得られ、式変形すると
$\displaystyle C'(x) = \dfrac{C(x)}{x}$
となります。$C'(x)$は限界費用、$C(x) / x$は平均費用なので、
「限界費用と平均費用の最低点は一致する」
もしくは、
「平均費用曲線の最低点を限界費用は通過する」
となります。
命題3
固定費用があるときには、生産を行っても固定費用を回収できなければ、企業は生産を行いません。言い換えれば、固定費用以上に利益をあげることが、企業にとって、生産を行うことの条件となります。
固定費用は生産を行っていないときの費用で、$C(0)$となることに注意すると、
$\pi(x) \; – \; C(0) \geq 0$
が生産を行うための条件となります(なお、$\pi(0) = \; – \; C(0)$でもあります)。
この式を解くため、$(1)$式を使うと、
$\pi(x) \; – \; C(0) = px \; – \; C(x) \; – \; C(0) \geq 0$
であり、価格$p$について解くと、
$\displaystyle p \geq \dfrac{C(x) \; – \; C(0)}{x}$
が得られます。
ここで、$C(x) \; – \; C(0)$は総費用から固定費用を除いたものなので可変費用であり、更に生産量$x$で割っているので、この式の右辺は平均可変費用であることが分かります。
すなわち、
「価格が平均可変費用以上のとき、企業は生産を行い、それよりも価格が低いときには生産を行わない」
となります。
命題4
$(2)$式から、生産量と価格の関係の式が得られるので、$(2)$を$x$で解いたときの関数を$S(p)$とすれば、
$x = S(p)$
となり、企業の供給曲線を得ることができます。
そして、命題3を考えると、
「企業の供給曲線は、平均可変費用以上の限界費用曲線である」
となります。
なお、供給曲線について、平均可変費用に等しいときの価格を$p^*$とし、改めて数式で表せば、
$\begin{equation}
x =
\begin{cases}
S(p) & p \geq p^*のとき \\
0 & p < p^*のとき
\end{cases}
\end{equation}$
となります。
参考
武隈愼一『ミクロ経済学』