エンゲル関数
エンゲル関数$f_i$とは、消費支出総額$C$に対する個々の品目への支出額$E_i$との関係を表す関数です(なお、$i$は品目の種類です)。
$E_i = f_i(C)$
式から分かるように、消費支出総額が変化したとき、個々の品目がどうなるかを示す関数となっています。
そして消費支出総額の変化に対して、その増減は個々の品目で異なり、消費支出総額を所得と考えれば、
$f’_i(C) > 0$のとき、上級財
$f’_i(C) < 0$のとき、下級財
となります。
推計式
1次式
上記のエンゲル関数は、一般形なので、エンゲル関数を推計するには、関数の特定化が必要です。
そして、最も簡単な推計式としては、1次式を想定し、次のような式が考えられます。
$E_i = \alpha_i + \beta_i C \quad \cdots \quad (1)$
なお、消費にかかる統計で、世帯単位で数字が得られるときには、世帯人員で消費額は変わるので、1人当たりで調整が必要になります。
推定値の意味
この式において、$\alpha_i$は消費支出総額が1単位増加したとき、$i$品目の消費支出がどうなるかという限界値を表しています。
$\dfrac{\partial E_i}{\partial C} = \beta_i \quad \cdots \quad (2)$
なので、上記の通り、$\beta$が正ならば上級財であり、$\beta$が負ならば下級財となります。
また、切片$\alpha_i$については、消費支出総額に対する品目$i$の支出割合を考えると、その数値の意味が理解できます。
この消費支出総額に対する品目$i$の支出割合は、
$\dfrac{E_i}{C} = \dfrac{\alpha}{C} + \beta$
なので、$\alpha$が正ならば、消費支出総額が増加すると、その品目の支出割合は増加し、$\alpha$が負ならば、消費支出総額が増加すると、その品目の支出割合は低下することが分かります。
そして、品目が食料品も場合には、いわゆる「エンゲル係数」と言われるものになります。
弾力性
個々の品目の消費支出に対して、消費支出総額の弾力性も考えることができます。
弾力性を$\varepsilon_i$とすると、一般形の$1$式から、次のような式になります。
$\varepsilon_i = \dfrac{d E_i / E_i}{d C / C} = \dfrac{d E_i}{d C} \cdot \dfrac{C}{E_i} \quad \cdots \quad (3)$
ここで、$(2)$式の1次式の場合で考えると、
$\varepsilon_i = \beta \cdot \dfrac{C}{E_i}$
で弾力性を得ることができます。すなわち、$\beta$と支出割合の逆数を掛け合わせたものになります。
なお、$C$は一般的には平均を用いることになり、回帰式では独立変数が平均ならば、従属変数も平均となるので、
$\varepsilon = \beta \cdot \dfrac{\bar{C}}{\bar{E_i}}$
で弾力性を得ることができます。
他の推計式
上記では、エンゲル関数を1次式としましたが、他の式も想定できます。
例えば、対数化したものも考えられます。
$\ln E_i = \alpha_i + beta_i \ln C$
このときには、対数化前の式は、$E_i = \alpha_i C^{\beta_i}$であり、$(3)$式の弾力性の式から、
$\varepsilon_i = \dfrac{d E_i}{d C} \cdot \dfrac{C}{E_i} = \alpha_i \beta_i C^{\beta_i-1} \dfrac{C}{\alpha_i C^{\beta_i}} = \beta_i$
であり、推定値$\beta$は、1次式のときには限界値でしたが、この場合には弾力性を意味することになります。
なおこの対数化した場合のエンゲル関数について、「支出弾力性」という形で、総務省統計局の「家計調査」で公表されています。
総務省統計局「家計調査」
参考
中村隆英・美添泰人・新家健精・豊田敬『経済統計入門』