経済効果などを推計するために、産業連関表が用いられたりしますが、レオンチェフ逆行列を見るだけで、産業の構造について、分析を行うことができます。
そしてその際に、いくつかの係数がありますので、紹介したいと思います。
まずは、産業連関分析において、次のようなモデルを考えます。
$\mathbf{X} = (\mathbf{I} \; – \; \mathbf{}A)^{-1} \mathbf{F}$
なお、レオンチェフ逆行列は、
$(\mathbf{I} – \mathbf{A})^{-1}\begin{bmatrix}
b_{11} & \cdots & b_{1j} & \cdots & b_{1n}\\
\vdots & \ddots & \vdots & \ddots & \vdots\\
b_{i1} & \cdots & b_{ij} & \cdots & b_{in}\\
\vdots & \ddots & \vdots & \ddots & \vdots\\
b_{n1} & \cdots & b_{nj} & \cdots & b_{nn}\\
\end{bmatrix}$
であり、最終需要$\mathbf{F}$は消費$C$・投資$I$・輸出$E$があるとして、次のような最終需要とそれに伴う生産額$\mathbf{X}$とします。
$\mathbf{F} \begin{bmatrix}
F_{1C} & F_{1I} & F_{1E}\\
\vdots & \vdots & \vdots\\
F_{iC} & F_{iI} & F_{iE}\\
\vdots & \vdots & \vdots\\
F_{nC} & F_{nI} & F_{nE}\\
\end{bmatrix} \quad , \quad \mathbf{X} \begin{bmatrix}
X_{1C} & X_{1I} & X_{1E}\\
\vdots & \vdots & \vdots\\
X_{iC} & X_{iI} & X_{iE}\\
\vdots & \vdots & \vdots\\
X_{nC} & X_{nI} & X_{nE}\\
\end{bmatrix}$
レオンチェフ逆行列におけるもの
【影響力係数】
レオンチェフ逆行列の列和(縦方向の合計)は、$j$部門に1単位の需要があったとき、すべての部門に与える総効果を表しています。
そしてその効果が全部門の平均値からどれだけ乖離しているかを指標としたのが、「影響力係数」になります。
$j$部門の影響力係数 $\displaystyle = \left. \sum_{i=1}^n b_{ij} \middle/ \dfrac{1}{n} \sum_{j=1}^n \sum_{i=1}^n b_{ij} \right.$
平均値で割っているので、1よりも大きければ、他の部門よりも、与える影響は大きいことになります。
【感応力係数】
レオンチェフ逆行列の行和(横方向の合計)は、全部門において、1単位の需要があったときの$i$部門が影響を受ける効果を表しています。
そしてその効果が全部門の平均値からどれだけ乖離しているかを指標としたのが、「感応力係数」になります。
$i$部門の感応力係数 $\displaystyle = \left. \sum_{j=1}^n b_{ij} \middle/ \dfrac{1}{n} \sum_{i=1}^n \sum_{j=1}^n b_{ij} \right.$
平均値で割っているので、1よりも大きければ、他の部門よりも、与える影響は大きいことになります。
ただ、現実は、全部門において1単位ずつ需要が発生することはないので、指標としてはあまり大きな意味はないとされます。
最終需要と生産額におけるもの
【生産誘発額係数】
生産額$\mathbf{X}$は、最終需要によって誘発された生産額を表しているので、「生産額誘発額」と呼ばれます。
そして、それぞれの最終需要合計によって、誘発された生産額を「生産誘発係数」と言います。
最終需要$k$による生産誘発係数 $\displaystyle = \left. X_{ik} \middle/ \sum_{i=1}^n F_{ik} \right. \quad (k = C \, , \, I \, , \, E)$
これにより、例えば、消費が増加したとき、ある部門の生産額がどれだけ誘発されるかが分かります。
【生産の最終需要依存度】(最終需要項目別生産誘発依存度)
それぞれの最終需要に伴う生産誘発額について、生産誘発額の合計で割れば、それぞれの最終需要に伴う生産誘発額の比率が分かります。これを「生産の最終需要依存度」(最終需要項目別生産誘発依存度)と言います。
最終需要$k$の生産の最終需要依存度 $\displaystyle = \left. X_{ik} \middle/ \sum_{k=C,I,E} X_{ik} \right.$
これにより、例えば、$i$部門について、消費の比率が高ければ、その部門は消費に依存している産業であることが分かります。
参考
宮沢健一『産業連関分析入門』
中村隆英・美添泰人・新家健精・豊田敬『経済統計入門』