はじめに
マクロ経済学のIS-LM分析において、低金利下で、LM曲線が水平になる状況を「流動性の罠」といいます。
図で説明すると、下のような形で、LM曲線は利子率に対して一定となり、総所得とは無関係になるので、金融政策は無効になるとされます。
図としてはこの通りですが、数式で説明するとしたら、どうなるのでしょうか。
図の説明だけで終わっているようなことも多いような気もするので、数式で流動性の罠の状況を説明します。
LM曲線
流動性の罠を説明する前に、まずはLM曲線を定義しておきましょう。
貨幣供給量を$M$、物価を$P$とすると、貨幣供給量は$M/P$となります。
貨幣需要は利子率$i$と総所得$Y$に影響されるとして、貨幣需要関数$L(i \, , \, Y)$とします。
このとき、貨幣供給と貨幣需要が均衡するとすると、次のようなLM曲線を得ることができます。
$\dfrac{M}{P} = L(i \, , \, Y) \quad(L_i<0 \, , \, L_Y>0) \quad \cdots \quad (1)$
なお、$L_i$と$L_Y$は、貨幣需要に関する利子率$i$と総所得$Y$の偏微分です。この条件により、貨幣需要は利子率が高ければ、貨幣をもつメリットは少なくなるので、貨幣需要は減少し、総所得が大きくなれば、取引が活発化するので、貨幣需要は大きくなるとしています。
$(1)$式から、全微分すると、
$\dfrac{d i}{d Y} = \; – \; \dfrac{L_Y}{L_i} > 0 \quad \cdots \quad (2)$
であり、LM曲線は右上がりの曲線になることが分かります。
流動性の罠
低金利下では、金利に対して、貨幣需要は弾力的になるので、無限に弾力的になるとすると
$L_i = \; -\; \infty$
となります。
このとき、これを$(1)$式に代入すると、
$\dfrac{d i}{d Y} = 0$
となり、総所得$Y$が変化しても、金利$i$は変わらないことになり、流動性の罠が生じることになります。
LM曲線の特定化
上記ではイメージがつかないかもしれませんので、LM曲線を特定化して、説明します。
$(1)式の$LM曲線が、次のような式で表されるとします。
$\dfrac{M}{P} = a + mY \; – \; n i \quad (m \, , \, n > 0)$
なお、利子率$i$と総所得$Y$の関係を見ると、$i$について整理すると、
$i = \dfrac{1}{n} \left(a + mY \; – \; \dfrac{M}{P} \right) \quad \cdots \quad (3)$
となります。
このとき、$(2)$式に対応する形で見ると、
$\dfrac{d i}{d Y} = \dfrac{m}{n} > 0 \quad \cdots \quad (4)$
であり、LM曲線は右上がりであることが分かります。そして、LM曲線の傾きは、貨幣需要への利子率と総所得への係数の比となっています。
ここで、流動性の罠に陥り、利子率$i$に対する係数$n$が$n \rightarrow \infty$となったとします。
$(4)$式から、
$\displaystyle \lim_{n \rightarrow \infty} \dfrac{d i}{d Y} = 0$
であり、総所得$Y$に対して、利子率$i$は反応しなくなり、$(3)$式から、
$\displaystyle \lim_{n \rightarrow \infty} i = 0$
となり、利子率は$0$に近くづくことになります。
参考
デビッド・ローマー『上級マクロ経済学』
齊藤誠・岩本康志・太田聰一・柴田章久『マクロ経済学』