はじめに
マクロ経済学の動学モデルにおいて、登場するのが、「横断性条件」と「非ポンジー・ゲーム条件」です。
「何となく分かるような感じもするが、どうも違いが分からない」
「それぞれの意味はどうなの?」
という方のために、その違いを含め、説明したいと思います。
そもそもの考え
動学モデルにおいては、将来も含めて、変数を検討し、最適な行動を求めることになります。
ただこのとき、次の2つの点に注意が必要になります。
1つは、変数が発散する場合です。
例えば、家計の貯蓄を考えると、貯蓄が将来、どんどんと大きくなり発散するような状態があるということは、家計は消費を後回しにしたほうがいいと言えます。しかし、期間は無限大なので、永遠に消費を後回しにすることになります。ですので、このような状態を想定することは、モデルからは排除する必要が生じます。
もう1つは、変数がマイナスになる場合です。
例えば、家計の貯蓄を考えると、将来、貯蓄がマイナス(借金)の状態にあるのは、異常事態です。しかも、期間が無限大であることを考えれば、無限に消費をし続け、将来、借金が残り続けるという事態を想定していることになり、モデルからは排除する必要が生じます。
そして、これらの2つの点を条件づけたのが、横断性条件と非ポンジー・ゲーム条件になります。
発散を排除 ⇒ 横断性条件
マイナスを排除 ⇒ 非ポンジー・ゲーム条件
横断性条件と非ポンジー・ゲーム条件
この2つの条件をそれぞれ数式で表すと、次のようになります。
横断性条件
横断性条件(Transversality Conditon)においては、発散を排除することになり、次のようになります。
$ \displaystyle \lim_{t \to \infty} \left( \dfrac{1}{1+r} k_t \right) \, \leq \, 0$
ここで、右辺で $ 0$ となっているのは、変数の値を使いつくすという点からです。
非ポンジー・ゲーム条件
非ポンジー・ゲーム条件(No-Ponzi Gaem Conditon)においては、マイナスを排除することになり、次のようになります。
$ \displaystyle \lim_{t \to \infty} \left( \dfrac{1}{1+r} k_t \right) \, \geq \, 0$
横断性条件と比べると、不等号が逆になっていることに注意してください。
動学モデルにおける条件
上記の横断性条件と非ポンジー・ゲーム条件を合わせると、結局は、次式が動学モデルにおける条件となります。
$ \displaystyle \lim_{t \to \infty} \left( \dfrac{1}{1+r} k_t \right) \, = \, 0$
期間が無限大になったとき、変数は $ 0$ に収束するということを求める形になっています。
家計の貯蓄で言えば、将来、貯蓄は余らせないし、借金もしない条件ということになります。
最後に
動学モデルを考えたとき、これらの条件は、非常に重要です。
ただ、現実はどうかというと、必ずしもそうは言えないとも考えられます。
例えば、個人では無限に生きることはなく、遺産を残したりして、横断性条件を満たした行動をとっているわけではありません。借金がどんどんと増えている日本の政府を考えれば、非ポンジー・ゲーム条件が成立しているのだろうかと思ったりもします。
理論的には非常に重要なものですが、同時に、頭の片隅でこのような視点も忘れてはいけないと思います。
参考
加藤涼『現代マクロ経済学講義』