年金制度
年金制度について、大きく分けると、積立方式と賦課方式の2つのものがあります。
積立方式 … 若年期に積み立てた保険金を市場で運用し、老年期にその保険金が受け取る
賦課方式 … 若年世代が支払っている保険金を、同時期の老年世代が受け取る
現在の日本においては、老年世代の年金を若年世代が支えているので、賦課方式が採用されています。
それぞれの方式には、一長一短がありますが、OLGモデルによるその違いについて、説明します。
年金制度
各世代には若年期と老年期があり、$t$期に生まれた世代について、若年期の消費を$c_t^y$、老年期の消費を$c_{t+1}^o$として、次のような効用関数を最大化します。
$u(c_t^y \, , \, c_{t+1}^o)$
そして各世代は、若年期に働き所得$y_t$を得て、老年期には働かず、若年期に蓄えた貯蓄$s_t$と年金$p_t$で生活するものとします。
積立方式
利子率を$r$とすると、積立方式における各世代の予算制約式は、次のようになります。
$c_t^y +s_t + p_t = y_t$
$c_{t+1}^o = (1 + r)(s_t + p_t)$
一式目は若年期の予算制約であり、二式目は老年期の予算制約となっています。$p_t$についていえば、若年期には年金保険料を支払い、老年期に市場で運用された$(1+r)p_t$を受け取る形になっています。
そして、この二式から、$s_t$をキャンセルすると、次式を得ることができます。
$c_t^y + \dfrac{c_{t+1}^o}{1 + r} = y_t \quad \cdots \quad (1)$
式から分かるように、年金$p_t$はこの式にはなく、積立方式の場合には、年金とは無関係に消費者は行動することになります。違う言い方をすれば、この場合には、基本的な異時点間の消費問題となります。
賦課方式
賦課方式においては、若年期の消費は積立方式の場合と変わりませんが、老年期の年金受取が変わってきます。老年期の年金受取額を$b_{t+1}$とすると、
$c_t^y +s_t + p_t = y_t$
$c_{t+1}^o = (1 + r) s_t + b_{t+1}$
となり、上記と同様に、$s_t$をキャンセルすると、次式を得ることができます。
$c_t^y + \dfrac{c_{t+1}^o}{1 + r} = y_t + \dfrac{b_{t+1}}{1 + r} \; – \; p_t \quad \cdots \quad (2)$
積立方式の$(1)$式と、この$(2)$式を比べると、賦課方式においては、右辺に$b_{t+1}/(1 + r) \; – \; p_t$が加わっています。
ところで、$t$期世代の人口を$L_t$とすると、政府にとっては、年金保険料と年金受取額は一致する必要があるので、
$p_{t+1} L_{t+1} = b_{t+1} L_t \quad \cdots \quad (3)$
となります。ここで、人口成長率を$n$とすると、
$\dfrac{L_{t+1}}{L_t} = 1 +n$
なので、毎期の年金保険料は一定($p = p_t =p_{t+1}$)として、この式を$(3)$式に代入すると、
$b_{t+1} = (1 + n) p$
であり、賦課方式における予算制約式$(2)$式に代入すると、
$c_t^y + \dfrac{c_{t+1}^o}{1 + r} = y_t + \dfrac{n \; – \; r}{1 + r}p \quad \cdots \quad (4)$
を得ることができます。
$(4)$式を見ると、積立方式と比べて、右辺に$p(n \; – \; r)/(1 + r)$が加わっており、人口成長率$n$と利子率$r$によって、予算制約式の大小が変わってきます。
$(4)$式の右辺は所得を表していますが、
$n > r$のとき、$ \dfrac{n \; – \; r}{1 + r}p > 0$であり、所得は増える
$n = r$のとき、$ \dfrac{n \; – \; r}{1 + r}p = 0$であり、積立方式と同じになる
$n < r$のとき、$ \dfrac{n \; - \; r}{1 + r}p < 0$であり、所得は減る
であることが分かります。
すなわち、利子率よりも人口成長率が高いときには、賦課方式は所得の増加をもたらしますが、逆に利子率よりも人口成長率が低いときには、賦課方式は所得の減少をもたらすことになります。
最後に
上記で述べたように、日本の年金制度は賦課方式を採用しています。
そして、賦課方式における上記の結論を考えると、国民皆年金がスタートした1961年以来、おおよそ人口成長率よりも利子率のほうが高い状況であり、各世代の国民の所得を減らしてきた制度と言えます。
参考
二神孝一・堀敬一『マクロ経済学』