概要
成長会計とは、生産力に必要なものとして、技術進歩 $ A$、資本 $ K$、労働力 $ L$ を考えたとき、それぞれがどれだけ、産出量 $Y$ に貢献するかを計測する方法です。
コブ・ダグラス型の生産関数を想定した場合、次式が成長会計の式となります。
$ \dfrac{d \, Y}{Y} = \dfrac{d \, A}{A} + \alpha \dfrac{d \, K}{K} + \beta \dfrac{d \, L}{L} \qquad (\alpha >0 \, , \, \beta>0)$
なお、$ d$ は増分で、例えば、$ d \, X / X$ は $ X$ の増加率を表します。
(この式の数学的な導出方法を知りたければ、「成長会計の導出方法」を参考にしてください)
すなわち、上記の成長会計の式は、技術進歩・資本・労働力が増減したときに、どれだけ産出量が増減するかを示す式となっています。
人口減少の影響
まず、議論を単純化するため、技術進歩と資本は変化がないとしましょう。
このとき、
$ \dfrac{d \, A}{A} = 0 \qquad ,\qquad \dfrac{d \, K}{K} = 0$
となるので、成長会計の式は、次のように単純化できます。
$ \dfrac{d \, Y}{Y} = \beta \dfrac{d \, L}{L} \qquad \cdots \qquad (1)$
また、人口減少を想定しているため、次式が成立しているとします。
$ \dfrac{d \, L}{L} \lt 0 \qquad \cdots \qquad (2)$
これらの式をベースに人口減少の影響を考えます。
産出量への影響
上記の $ (1)$ 式について、$ (2)$ 式を考えると、次のようになります。
$ \dfrac{d \, Y}{Y} = \beta \dfrac{d \, L}{L} \lt 0$
つまり、人口減少が起こると、産出量は減少することが分かります。
例えば、$ \beta = 0.4$ で、1%人口減少するとしたら、$ d \, L / L = -0.01$ なので、産出量は、
$ \dfrac{d \, Y}{Y} = 0.4 \times (-0.01)$
と、$ 0.004$ だけ、減少することになります(4%の産出量の減少)。
この点から、確かに人口減少は、産出量の減少を招き、よくない状態と言えるでしょう。
1人当たり産出量への影響
ところが、1人当たり考えると、答えは違ってきます。
まず、1人当たりの産出量を$ y$とすると、$ y = Y / L$ なので、次のように表せます。
$ \dfrac{d \, y}{y} = \dfrac{d \, Y}{Y} – \dfrac{d \, L}{L} \qquad \cdots \qquad (3)$
このとき、$ d \, Y / Y$ と考えると、$ (2)$ 式から、1人当たりの産出量の増減にはプラスになることが分かります(人口の減少率が大きいほど、1人当たりの産出量 $ d \, y / y$ は大きくなる)。
上記の $ \beta = 0.4$ で、1%人口減少する場合を考えると、$ (3)$ 式から、
$ \dfrac{d \, y}{y} = -0.004 – (-0.01) = 0.06$
となり、人口が1%減少すると、1人当たりの産出量は6%増加することが分かります。
このように、人口減少が起こると、産出量は減少するが、1人当たりの産出量は増加し、豊かになるということが言えるのです。
注意点
何だか、トリックのような話ですが、数学的には正しいのです。
ただ、この論理には、注意点があります。
1つは、人口減少が技術進歩影響がないとしている点です。人口減少があれば、研究者なども減り、技術進歩が停滞するかもしれません。
2つは、資本については、人口減少しても増減しない状態を想定しています。このロジック自体は、人口が減少しても、(摩耗はあるにせよ)設備・工場などの資本が減るわけではないので、正しいです。ただ、人口減少で減った人々が、維持されている資本をすべて使うことが想定されています。言い換えれば、人口減少が生じれば、設備や工場などの資本は遊休化・余ることが考えられますが、そういうことはないということが想定されています。
3つは、人口減少の中でも、労働者の質は維持されているということです。高齢化などにより、労働力として生産性が下がれば、当然ながら、影響は生じます。
以上から、人口減少すれば、絶対的に1人当たりの産出量は増加し、豊かになるのですが、この3つの注意点をクリアする必要もあるということです。
参考
齊藤誠・岩本康志・太田聰一・柴田章久『マクロ経済学』