はじめに
経済が不況であれば、失業者が多く、賃金も上がらない状況となり、経済が好況であれば、失業者は少なく、賃金も上昇すると思われます。
横軸に失業率、縦軸に賃金上昇率をとり、図で表せば、下のように右下がりの曲線が描けます。
ある意味、当たり前の常識と言えるものですが、ここから得られるフィリップス曲線について、説明します。
フィリップス曲線
ニュージーランド人のフィリップスが、1958年にインフレ率と失業率の間に、トレードオフの関係があることを発見しました。
そして、このフィリップスの名をとり、「フィリップス曲線」(Phillips curve)が考えられました。
フィリップス曲線とは、インフレ率が高いときには失業率が低く、インフレ率が低いときには失業率は高いというものです。
図を見たら分かるように、縦軸について、上記では「賃金上昇率」で、フィリップス曲線では「インフレ率」になっているだけです。
「なんだ! 単なる言い換えか!」
と思うのでしたら、それは早計で、重要なポイントがあります。
ポイント
政府にとって、失業率を抑えることは非常に重要です。しかし、賃金については個々の民間企業の話でもあり、賃金上昇率をコントロールすることは難しい面もあります。
この点で、上の失業率と賃金上昇率のグラフでは、政府としてはどうしようもない部分が出てきたりもします。
しかし、フィリップス曲線を前提にすればどうでしょうか。
インフレ率であれば、失業率と同様に、まさしく政府がコントロールすべき指標です。そして、インフレ率ならば、(実際にっできるどうかは別として)金融政策における重要なテーマです。
このことから、フィリップス曲線を想定することで、失業率とインフレ率という政府としての2つのテーマに関わってくることになります。
そして、フィリップス曲線から得られることは、
「高インフレ・低失業率」
「低インフレ(デフレ)・高失業率」
という2者択一の問題になります。
この点から、政府にとって、マクロ経済学にとって、重要な意味合いがあるものとなっています。
問題点
実際のデータを用いて発見されたものですが、いくつかの問題点があります。
現実的かどうか
フィリップス自体は、1861年から1957年のイギリスのデータを用いて発見したものですが、その後のデータでは必ずしも、インフレ率と失業率の間でトレードオフが成立しているといえば、そうではありません。
1970年代には、そのような状況が見られず、理論的な修正なども考えられました(適合的期待や合理的期待などです)。
このような昔の話を持ち出さなくても、これまでの日本を考えれば、当てはまらないことは分かるでしょう。これまでの日本は、失業率は低いのですが、インフレ率も低い状態(デフレ状態)で、フィリップス曲線のようなトレード・オフにないことは明白です。
賃金上昇率とインフレ率
賃金上昇率と失業率との間で関係があるのは分かりますが、なぜインフレ率と失業率の間で、関係が出てくるのでしょうか。
理論的には、企業において、賃金はコストであるので、賃金が上下すると、生産物の価格も上下することになります。その結果、賃金上昇率がインフレ率に影響を与え、インフレ率と失業率の間に関係性が見られるとされます。
ただ現実の世界を考えると、賃金の上下がすぐに物価に反映されるわけではありません。
曲線が垂直な場合
例えば、不況であっても、働きたい人が賃金を問わずに働けば、失業率と賃金の関係はなくなるはずです。好況であっても、働きたい人が賃金を無関係に働けば、上記のような右下がりの曲線にはならないはずです。
ですので、賃金上昇率が瞬時に反応すれば、働きたくない人を除けば、失業者は存在しないことになります。
そしてこのときには、失業率と賃金上昇率の関係は、垂直の線になります。
言い換えれば、労働市場で、賃金が伸縮的ではないため、上記のような右下がりの曲線が描かれることになります。
逆に、インフレ率などを予想し賃金を伸縮的に上下できれば、右下がりのフィリップス曲線は成立しないことになります。
まとめ
フィリップス曲線は、インフレ率と失業率の間に関係があるという発見で、非常に面白く、政策的にも重要な要素を意味をもっています。
同時に必ずしも右下がりの曲線にならないこともあり、適合的期待や合理的期待などを用いて、理論的に検討されてきました。
いずれにせよ、マクロ経済学においては、重要な曲線・トピックとなっています。
最後に、数式で知りたいからは、「3つのフィリップス曲線」もどうぞ
参考
齊藤誠・岩本康志・太田聰一・柴田章久『マクロ経済学』
鴇田忠彦・藪下史郎・足立英之『初級・マクロ経済学』