はじめに
消費者は、消費をすることによって、効用を得ることができますが、時間という概念が入ってくると、ちょっと検討が必要なことが生じます。
消費者は、現時点で消費を行うのか、現時点での消費を我慢して、貯蓄し、将来において消費するかという問題に直面します。当然ながら、貯蓄をすれば、利子がつくので、将来のほうが多く消費できますが、その分、現在の消費を我慢する必要があります。
そして、このような消費の効率的な動学的配分について、「オイラー方程式」があります(同じような考えをラムゼーとケインズが導出したので、「ケインズ・ラムゼー・ルール」と呼ばれたりもします)。
なお、物理学でもオイラー方程式はありますが、それとは違うので、注意してください。
オイラー方程式
一般的な限界効用が逓減する、次のような効用関数$u(c)$を考えます。
$u'(c_t) > 0 \quad , \quad u^{”}(c_t) < 0$
$t$期において、この消費者が消費を限界的に1単位だけ減らして、それを貯蓄し、$t+1$期に消費することを考えます。
貯蓄するので、$t$期の利子率を$r_t$とすると、限界的に減らすことによる限界便益は、
$(1 + r_t)u'(c_{t+1})$
となります。
他方、この消費者の時間選好率を$\rho$とすると、消費を我慢することによる限界費用は、
$\dfrac{u'(c_{t+1})}{1 + \rho}$
となります。
すなわち、この消費者が消費を限界的に1単位だけ減らすことによる限界便益と限界費用は、次のようになります。
$\dfrac{1 + r_t}{1 + \rho}u'(c_{t+1})$
ところで、時間を通じて、消費が効率的であるには、時間に関係なく、限界効用が一定であることが必要と考えられます。
$u'(c_t) = \dfrac{1 + r_t}{1 + \rho}u'(c_{t+1})$
という式が成り立ち、これが「オイラー方程式」になります。
このとき、利子率が上昇したときには、この式が成立するには、$u'(c_t)$は増加、$u'(c_{t+1})$は低下する必要があります。この効用関数については、$u^{”}(c_t) < 0$なので、$t+1$期の消費を増やすことになります。
同様な議論が、時間選好率$\rho$についても言えることから、オイラー方程式では、
利子率の上昇 ⇒ $t+1$期の消費の増加
時間選好率の上昇 ⇒ $t+1$期の消費の減少
となります。
効用関数の特定化
オイラー方程式の特徴を分かりやすく見るため、効用関数$u(c_t)$が、次のような式であるとします。
$u(c_t) = \dfrac{c^{1 – 1/ \sigma}}{1 \; – \; 1 / \sigma}$
この効用関数においては、
$u'(c_t) = c^{- 1/ \sigma}_t > 0$
$u^{”}(c_t) = – \dfrac{1}{\sigma} c^{-1 – 1/ \sigma}_t < 0$
となっています。
この効用関数をオイラー方程式に代入すると、
$ c^{- 1/ \sigma}_t = \dfrac{1 + r_t}{1 + \rho} c^{- 1/ \sigma}_{t+1} $
となり、対数化すると、次のようにになります。
$\ln c_{t+1} \; – \; \ln c_t = \sigma [ \ln (1 +r_t) \; – \; \ln (1+\rho)]$
ここで、
$\dfrac{\Delta c_{t+1}}{c_t} = \ln c_{t+1} \; – \; \ln c_t$
とすると、
$\dfrac{\Delta c_{t+1}}{c_t} = \sigma ( r_t \; – \; \rho)$
となります。
この式から、
$r_t > \rho$のとき、$t+1$期の消費を増やす
$r_t < \rho$のとき、$t+1$期の消費を減らす
ことが分かります。
参考
齊藤誠・岩本康志・太田聰一・柴田章久『マクロ経済学』