マーシャル・ラーナー条件
為替レートが増価すれば、純輸出が減少し、為替レートが減価すれば、純輸出が増加することを保証する条件として、マーシャル・ラーナー条件があります。
自国の実質為替レートについての輸出需要弾力性を$\varepsilon$、輸入需要弾力性を$\varepsilon^*$とすると、次のようなものです。
$\varepsilon + \varepsilon^* > 1 \quad \cdots \quad (1)$
なお、自国の輸出数量・輸入数量を$Q^X$、$Q^M$、実質為替レートを$Z$とすると、それぞれの輸出需要弾力性$\varepsilon$、輸入需要弾力性$\varepsilon^*$は、次のようなものです。
$\varepsilon = \dfrac{\Delta Q^X / Q^X}{\Delta Z / Z} \quad \cdots \quad (2)$
$\varepsilon^* = \dfrac{\Delta Q^M / Q^M}{\Delta Z / Z} \quad \cdots \quad (3)$
※関連するものとして、「円安は純輸出を増やすのか? マーシャル・ラーナー条件について」も見てください。
マーシャル・ラーナー条件の導出方法
輸出を$X$、輸入を$M$とすると、純輸出$NX$は、次のようになります。
$NX = X \; – \; M$
自国・海外の財・サービスの価格を$P \, , \, P^*$、自国の輸出・輸入数量をを$Q^X \, , \, Q^M$とし、名目為替レートを$S$とすると、純輸出$NX$は、次のように書き換えることができます。
$NX = P Q^X \; – \; S P^* Q^M$
実質為替レートを$Z$とすると、$Z = S P^* / P$であることに注意すると、
$\dfrac{NX}{P} = Q^X \; – \; \dfrac{S P^*}{P} Q^M = Q^X \; – \; Z Q^M$
となります。そして、自国の財・サービスの価格$P$はニュメレールとして、$P=1$と簡素化すると、次のようになります。
$NX = Q^X \; – \; Z Q^M$
これについて、実質為替レート$Z$の影響を見るため、$Z$で微分すると、
$\dfrac{\Delta NX}{\Delta Z} = \dfrac{\Delta Q^X}{\Delta Z} \; – \; Z \dfrac{\Delta Q^M}{\Delta Z} \; – \; Q^M$
となり、両辺に$Z / Q^X$を掛けると、次のようになります。
$\dfrac{\Delta NX}{\Delta Z} \dfrac{Z}{Q^X} = \dfrac{\Delta Q^X}{\Delta Z} \dfrac{Z}{Q^X} \; – \; Z \dfrac{\Delta Q^M}{\Delta Z} \dfrac{Z}{Q^X} \; – \; Q^M \dfrac{Z}{Q^X} \quad \cdots \quad (4)$
ここで、当初は貿易収支がバランスしていたと仮定すると、$NX = 0$であり
$Q^X = Z Q^M$
とすると、$(4)$式は、
$\dfrac{\Delta NX}{\Delta Z} \dfrac{Z}{Q^X} = \dfrac{\Delta Q^X}{\Delta Z} \dfrac{Z}{Q^X} \; – \; Z \dfrac{\Delta Q^M}{\Delta Z} \dfrac{Z}{Z Q^M} \; – 1$
となり、次のように整理できます。
$\dfrac{\Delta NX}{\Delta Z} \dfrac{Z}{Q^X} = \dfrac{\Delta Q^X / Q^X}{\Delta Z / Z} \; – \; Z \dfrac{\Delta Q^M / Q^M}{\Delta Z / Z} \; – \; 1$
ここで、$(2)(3)$式の輸出需要弾力性・輸入需要弾力性を使うと、
$\dfrac{\Delta NX}{\Delta Z} \dfrac{Z}{Q^X} = \varepsilon + \varepsilon^* \; – \; 1$
となります。
実質為替レートが増加したとき、純輸出も増加するには、$\Delta NX / \Delta Z$が正である必要があるので、
$\dfrac{\Delta NX}{\Delta Z} \dfrac{Z}{Q^X} > 0$
から、
$\varepsilon + \varepsilon^* \; – \; 1 > 0$
を得ることができます。
これは、まさしく$(1)$式のマーシャル・ラーナー条件であることが分かります。
参考
藤井英次『コア・テキスト国際金融論』