はじめに
国際貿易が行われているとき、自国が国内産業の保護のため、関税をかけることが考えられます。
関税をかけることで、外国からの輸入が制限され、国内産業の財の価格は上昇します。価格が上がるので、需要は減少しますが、企業は国内生産を増やすので、最終的には、自己の国内産業の保護につながるという考えです。
論理を成立すると、次のような形です。
①関税をかける
↓
②輸入が制限され、その財の国内価格は上昇する
↓
③その財の需要は減少するが、国内生産は増加する
↓
④国内産業の保護につながる
ところが、現実的にはどうかは別として、理論的にはこのような論理が必ずしも当てはまらない場合があることが知られており、「メツラーの逆説」と言われています。
メツラーの逆説
まずは、メツラーの逆説について説明すると、メツラーの逆説とは、
「国内産業を保護するため、関税を課すと、逆にその産業の生産量が減少してしまう」
というものです。
上記の論理とは違った予想外の説なので、逆説となっています。
それではなぜこのようなことが、少なくとも理論的には起こりうると考えられるのでしょうか。
自国が大国である場合を考えましょう。この場合には、自国の輸出入が外国にも影響を与えることになります。そこで、関税をかけると自国では輸入が制限され、その輸入財の国内価格は上昇します。
他方、外国においては、これまで輸出していたものが制限されるので、その財の超過供給が生じ、価格低下が生じます。この価格低下が大きければ、自国においては関税により価格を引き上げたにもかかわらず、関税をかける前よりも価格が低下してしまう可能性があります。この結果、その産業では価格低下から、かえって生産量が減少してしまうというわけです。
論理を成立すると、次のような形です。
①関税をかける
↓
②輸入が制限され、その財の国内価格は上昇する
↓
③逆に、それを輸出していた外国では、超過供給が生じ、価格低下を招く
↓
④価格低下が著しく、関税をかける前よりも、その財の価格が低下する
↓
⑤価格低下から、自国の産業では生産量が減少する
最後に
あくまでも理論的でどこまで現実的かは何とも言えませんが、少なくとも大国であれば、自国の政策が外国や国際市場において影響を与えることになるので、その影響がブーメランのように、自国に跳ね返ってくる可能性があるということです。
参考
小田正雄『現代国際経済学』
井手豊也『ビギナーのための国際経済学』