はじめに
2つの金融商品A・Bがあるとします。
金融商品AとBにおいて、金利が異なれば、金利の高いほうの金融商品を投資家は求めることになります。
例えば、金融商品Aのほうが金融商品Bよりも金利が高いならば、投資家は、金融商品Bを売り、金融商品Aを購入することになるでしょう。
金融商品Aの金利 > 金融商品Bの金利
金融商品Aの価格は上昇し、金利は低下し、金融商品Bの価格は下落し、金利は上昇します。
金融商品Aの価格↑ ⇒ 金融商品Aの金利↓
金融商品Bの価格↓ ⇒ 金融商品Bの金利↑
この結果、金融商品Aと金融商品Bの金利は等しくなります。
金融商品Aの金利 = 金融商品Bの金利
このような動きを「金利裁定」と言い、このときの投資家の取引を「裁定取引」と言ったりします。
ところで、このような「裁定」は、金利の違いだけではなく、税率の違いから生じることがあります。
税金があるときに、税引き後の金利で裁定取引が行われ、金利が等しくなることを「租税裁定」と言います。
数値例
金融商品Aと金融商品Bの税引き前利回りは、いずれも5%であるとします。
ただ、金融商品Aは20%の税金がかかり、金融商品Bは非課税とします。そうすると、金融商品Aの税引き後利回りは4%、金融商品Bの税引き後利回りは5%になります。
税率 | 税引き前利回り | 税引き後利回り | |
---|---|---|---|
金融商品A | 20% | 5% | 4% |
金融商品B | 0% | 5% | 5% |
このとき、税引き前利回りはどちらの金融商品も同じですが、税引き後利回りを考えたとき、金融商品Bのほうが有利になります。
ところが、金融商品Aと金融商品Bが自由に取引できれば、租税裁定が働き、税引き後利回りを考慮して、投資家は売買するでしょう。
投資家は、税引き後利回りが高い金融商品Bを求め、税引き後利回りが低い金融商品Aを売却するでしょう。
金融商品Aの価格↓ ⇒ 金融商品Aの金利↑
金融商品Bの価格↑ ⇒ 金融商品Bの金利↓
この結果、次のように、税引き後利回りが両金融商品で等しくなり、税引き前利回りは変化することになると考えられます。
税率 | 税引き前利回り | 税引き後利回り | |
---|---|---|---|
金融商品A | 20% | 5.625% | 4.5% |
金融商品B | 0% | 4.5% | 4.5% |
このように、税率の違う金融商品があるときには、税引き後利回りで裁定取引(租税裁定)が行われることになります。
明示された税金と隠れた税金
上記の数値例について、税金についてみてみましょう。
金融商品Aについては、課税が行われており、
金融商品Aの税金 = 5.625 – 4.5% = 1.125%
だけ、税金を支払うことになります(これを「明示された税金」と言います)。
また、金融商品Aと金融商品Bの税引き前利回りを比較したとき、課税の有無で、金融商品Aの税引き前利回りは上昇し、金融商品Bの税引き前利回りは低下しています。
金融商品Aの税引き前利回り – 金融商品Bの税引き前利回り = 5.625 – 4.5% = 1.125%
当初は、同じ税引き前利回りは5%であったのに、租税裁定の結果、1.125%の税引き前利回りの差が生じることになります(これを「隠れた税金」と言います)。
参考
早稲田大学大学院ファイナンス研究科・早稲田大学ビジネススクール(編集)『MBA・金融プロフェッショナルのためのファイナンスハンドブック』