概要
モディリアーニ=ミラー定理(MM理論)とは、
「諸仮定の下で、いかなる資本政策においても、企業価値に影響を与えることはない」
というものです。
この定理に下では、企業は株式によって資金を調達しようが、債券による借入で資金を調達しようが、企業価値は変わらないことを示しています。
モディリアーニ=ミラー定理
より詳しくモディリアーニ=ミラー定理について、説明しましょう。
【仮定】
モディリアーニ=ミラー定理においては、次のような仮定が置かれます。
①企業は発行済み株式の価値を最大化する
②資本市場は完全競争市場であり、取引コストや税金は発生しない
③各経済主体は完全な情報を得ており、情報の非対称性がない
④企業と投資家は、同一の利子率で借入・貸出を行うことができる
⑤企業は、その資本構成について、無差別である
【資金調達が株式のみの企業】(借入なし)
資金調達が株式だけなので、この企業は、配当という形で、投資家に収益をもたします。
株式について、株式市場で評価された価値を$S_U$とすると、この企業の企業価値$V_U$は、
$V_U =S_U \quad \cdots \quad (1)$
となります。
【資金調達が株式と借入による企業】(借入あり)
株式と債券によって、この企業は資金調達を行うことになります。
そして、株式については配当、債券については利息とう形で、投資家に収益をもたらします。
この企業の株式について、株式市場で評価された価値を$S_L$、債券による借入額を$D_L$とすると、この企業の企業価値$V_L$は、
$V_L = S_L + D_L \quad \cdots \quad (2)$
となります。
【モディリアーニ=ミラー定理】
この企業が利益$\pi$を上げたとします。
そうしたとき、資金調達が株式のみの企業からの収益は、税金などがかからないので、そのまま投資家の収益$\Pi_U$になります。
$\Pi_U = \pi$
次に、資金調達を株式と借入で行った企業については、利子率を$r$とすると、投資家は、収益から利払いを除いた
$\pi \; – \; r D_L$
を受け取り、債券からは、
$r D_L$
の利払いを受けるので、このときの投資家の収益$\Pi_L$
$\Pi_L = (\pi \; – \; r D_L) + r D_L = \pi$
であり、
$\Pi_U = \Pi_L$
となり、いずれの企業においても、投資家が受け取る収益は同じになります。
収益が同じなので、$(1)(2)$式から、
$V_U = V_L$
が成り立ち、企業にとっては、資金調達について、株式によるのか、借入によるのかは無差別であり、どちらについても企業価値は同じになります。
税金が発生する場合
ただし、税金が発生する場合には、借入を行ったほうが、企業価値は高くなるとされます。
資金調達について、株式のみの企業の場合、法人税率を$t$とすると、投資家が受け取る収益は
$\Pi_U = (1 \; – \; t) \pi$
となります。
他方、資金調達を株式と借入で行った企業については、投資家が受け取る収益は、
$\Pi_L = (1 \; – \; t) (\pi \; – \; r D_L) + r D_L = (1 \; – \; t) \pi + tr D_L$
となります。
これらから、
$\Pi_U < \Pi_L$
であり、資金調達を株式と借入で行った企業に投資を行ったほうが、投資家にとっては収益は大きく、$(1)(2)$式から、
$V_U < V_L$
が成り立ち、資金調達を株式と借入で行うほうが、企業価値は高まることが分かります。
参考
池尾和人・黒田晁生・岩佐代市・古川顕『金融』
武隈愼一『ミクロ経済学』