一般的に、地方自治体や公営企業は、地方自治法・地方財政法・地方公営企業法などの法律に縛られ、議会の監視下で、組織が運営されています。
しかし、もし地方自治体や公営企業が財政破綻しても、国などが破綻を防ぐということが予想されると、地方自治体や公営企業は放漫経営を行う可能性が出てきます。
これを「ソフトな予算制約」と言います。
例
例えば、ある地方自治体を考えましょう。
その地方自治体が、経営努力をしたときの利得を2、経営努力を怠り破綻したときの利得を1とします。
経営努力する : 2
経営努力しない : 1
このときには、当然ながら、その地方自治体は破綻を防ぐため、経営努力を行います。
しかし、地方自治体が破綻したとき、国が救済するかどうかを考えましょう。
国としては、地方自治体が破綻されては困るので、救済するほうが利得が高いとすると、国はその地方自治体の破綻を救済することになります。
そして、救済されたときの地方自治体の利得を3とします。
そうすると、地方自治体の利得は、次の3つのパターンになります。
経営努力する : 2
経営努力せず、救済される : 3
経営努力せず、救済もされない : 1
これを見ると、地方自治体としては、経営努力をせずに救済されるときが、最も利得が高くなります。
すなわち、この地方自治体としては、国が破綻しても救済すると考えたとき、経営努力を怠るのが、最適な行動になります。
このように、国が救済するだろうということが、放漫経営を導き、ソフトな予算制約となります。
そして、このような予算制約のソフト化は、地方自治体や公営企業だけではなく、一般企業においても、生じる可能性があります。
大手企業・金融機関などは、政府が倒産したら大きな問題が生じると考える可能性が高く、破綻しても救済が見込まれると予想すると、それらの企業においても、予算制約はソフト化します。
モラルハザードとの違い
このソフトな予算制約と似ているものとして、モラルハザードがあると思います。
しかし、モラルハザードは、あくまでも、情報の非対称性をもとにしたものなので、概念としては異なります。
上記の地方自治体の例でいえば、国が地方自治体の情報をすべて把握していても、地方自治体は、放漫経営を行う可能性がなくなるわけではありません。あくまでも、国が救済をするだろうと予想することで、ソフトな予算制約が生じます。
なお、地方自治体の行動や情報が、国は把握できず、地方自治体が放漫経営を行ったとするならば、モラルハザードの問題となります。
参考
山重慎二『財政学』