はじめに
経済政策の1つとして、減税などの財政政策があります。
通常考えれば、減税などを行えば、景気は良くなると言えるでしょう。
しかし、経済理論的には、「リカードの等価命題」を考えれば、必ずしもそうとは言えません。
例えば、国が借金をして減税をしても、将来、国は借金返済のために増税をすることになります。そして、それを国民が予想すれば、将来の増税に備えて、現在の減税分を貯蓄しておくことになるでしょう。
すなわち、借金をして減税などを行っても、景気は良くならないということになります。
そして、このような考えを「リカードの等価命題」と言います。
リカードの等価命題の問題点
理論的には、リカードの等価命題は大事な考えです。
しかし、現実的にこの命題が当てはまるのかと言えば、そうとは言えないでしょう。
1つは、人間は必ずしも、合理的ではないということです。
人間が合理的に行動すれば、この命題は成立するかもしれませんが、現在の減税を将来の増税と考えなければ、この命題は成立しません。
2つは、将来の経済状況が現在と変わらないということが前提とされている点です。
例えば、現在時点で減税を行うことで、景気が非常によくなり、将来の増税の負担が減少することを想定すれば、この命題は成立しなくなるでしょう。
3つは、リカードの等価命題では、減税の恩恵を受ける人と将来の増税を負担する人が同じとされている点です。
しかし現実は、人間には寿命があるので、現在の減税の恩恵を受ける人が必ずしも、将来、増税されるとは限りません。
現在の日本において、国債による国の借金は多くあるわけですが、その問題の1つとして、「将来にツケを残す」という主張があります。この主張のように、現在の世代が必ずしも、将来、そのツケを払うとは限らず、リカードの等価命題は成立しないと言えるでしょう。
バローの中立命題
上記のように、リカードの等価命題は現実的ではなく、必ず成立するとは言えないのですが、上記の3つ目の問題について、等価命題が成立する可能性を示したのが、「バローの中立命題」です。
発想は簡単で、
「現在の世代が将来の世代のことも考えて、遺産を残せば、リカードの等価命題は成立する」
というものです。
言い換えれば、
「現在、公債により減税を行っても、現在の世代は将来の増税を予想し、将来世代への負担を考えて、その減税分を遺産として残すことになるので、減税の減税の効果はない」
というものです。
このように、リカードの等価命題をベースに考えられたものなので、この2つを合わせて「リカード・バローの中立命題」と言われたりもします。
まとめ
このように、バローの中立命題は、リカードの等価命題をベースにしながら、将来世代への利他性や遺産というものを導入し、リカードの等価命題の問題点を解決する考えとなっています。
ただ当然ながら、上記のリカードの等価命題の問題点をすべて解決したわけではなく、現在の世代がどこまで将来の世代について考えているかと言えば、疑問ともいえるでしょう。