概要
政府が課税を行うにあたり、何の原則もなく税を徴収すれば、問題が生じます。
そこで、財政学において、「課税の原則」というものがあります。
課税の原則としては、次の3つ。
①公平
課税にあたっては、公平でなければならないとする原則です。
例えば、同じ所得であっても、ある人には多く課税し、別の人には少なく課税を行うのでは問題が出ます。そこで、所得が同じであれば、課税も同じにするようにというのがこの原則です。
②中立
課税により、実際の経済活動に影響を与えてはいけないというのが、この原則です。
例えば、課税により、個人の消費行動や企業の投資活動に影響を与えれば、資源配分に歪みをもたらすことになり、損失などを受ける個人や企業などが発生してしまいます。このようなことは避けよう・やめようというのが、この原則です。
③簡素
課税にあたっては、できるだけ簡素に行う必要があるというのが、この原則です。
例えば、税制が非常に複雑であれば、その知識の有無で課税される税額が異なったり、うまくその抜け道を見つけようとする人が出てきます。それでは、上記の公平性が担保されなくなります。
また、この原則は徴収するにあたってもいえる原則です。課税を行うにあたり、税金を徴収する費用が非常に大きければ、その分政府の収入は減少することになります。そこで、税の徴収にあたっても、簡素であることが求められます。
個人的な感想
課税の原則は「原則」として理解はできます。しかし現実には、この原則に基づいて、課税が行われているとは言えないと思います。
それぞれの原則について、説明すると、以下の通りです。
①公平
「③簡素」の原則とも関連しますが、「節税」という言葉があるように、同じ所得を得ていても、税金の額を減らす方法を知っている人と知っていない人では、同じ額を納税しているわけではありません。
また、所得の額が同じであっても、所得税を考えれば、給与所得・事業所得・山林所得などの所得の稼ぎ方で税金の計算方法は変わってきます。
これらのことから、必ずしも公平に課税されているとは限らないというのが、現実でしょう。
②中立
経済政策を考えた場合、「税制」というのは、1つの政策の手段です。経済を活性化したければ減税を行い、経済を引き締めるときには増税というのが、経済政策の定番です。
そうではなくとも、税により実際の経済に影響を与えることは消費税のことを考えれば分かると思います。消費税は2014年に8%になり、2019年に10%になりましたが、そのせいでアベノミクスの効果が低減したという話があるように、景気に大きな影響を与えます。
また、エコカー減税などのように、一部の分野の経済活動を促進するために、減税策がとられたりもします。
これらの点から、現実には、課税で実際の経済活動に影響を及ぼさないことは少なく、むしろ実際の経済活動を誘導するために政策的に課税が行われたりもしています。
③簡素
憲法において、納税は国民の義務とされます。ですので、誰もが分かるような仕組みである必要がありますが、現実は、税金の仕組みは難しいと感じている人が多いのではないでしょうか。
そもそも、「税理士」という税の専門家が必要ということは、それだけ税金の話は難しいということを表しているのだと思います。
この点で、「簡素」という原則も、必ずしも成立していないと思います。
参考
畑農鋭矢・林正義・吉田浩『財政学をつかむ』