はじめに
法人に関しては、いくつかの税金が課せられます。
例えば、
・法人税(国税)
・法人住民税(地方税)
・法人事業税(地方税) など
ところで、
「法人って言っても、実際に存在してるわけではないのに、なぜ税金が課せられるの?」
「最終的には、個人に所得が行くので、その段階で税金をとればいいのでは?」
「法人と個人で2回も税金を課せられるのは、二重課税では?」
と思うことはないでしょうか。
この点で、法人に関する税について、2つの考え方があるので、説明したいと思います。
法人について
そもそも、「法人」とは何でしょうか。
法人という「人」は、世の中には存在はしていません。この言葉の通り、法によって設けられた人だから、「法人」と呼ばれるものです。
なので、実際は存在はしてはいないが、法により、作られた「人」のようなものが、法人となります。
この点から、法人というものについて、2つの見方が生まれることになります。
「法人は実在しているのか」
「法人は実在していないのか」
2つの考え方
法人実在説
法人というものが、実在しているという考え方です。
法人という「人」いませんが、法人自体で経済活動を行っており、法人により取引の主体となっています。
具体的には、企業と取引を行う場合、その企業の社長や社員と契約を行うことはありません。あくまでも、企業と契約を行うことになり、契約書もその企業と締結することになります。
このようなことから、あくまでも法によって設けられた「人」ですが、実際に存在していると考えるのが、法人実在説です。
そうしたときに、実際に「人」として存在しているのだから、税金を課税することが考えられます。
現在の日本においては、法人実在説に基づいて、課税が行われています。
例えば、個人に対する税金として所得税があるように、法人に対して法人税という税金があります。
もっと分かりやすいのが、法人住民税です。個人においては、その居住している地方自治体に住民税という形で、税金が課せられます。所得があろうがなかろうが、均等割ということで、個人には課税が行われます。同様に、法人に対しても、法人があるというだけで、その存在している地方自治体から法人住民税が課せられ、個人住民税と同様に、均等割も発生します。
法人擬制説
法人はあくまでも自然人(人間)になぞらえたもので、自然人のみが法的な主体であるという考え方です。
この考えでは、法人は法的な主体にはならないので、課税はあくまでも自然人である個人に課せられるべきというものになります。
そして法人税は、出資者が受け取るべき配当金などの所得を前取りするものというように考えられます。
法人税と所得税の二重課税問題
法人税と個人の所得税が2つもあるのは、二重課税ではないかという議論があります。
会社のオーナー社長をやっていると、自分の会社について法人税が課せられ、更に社長個人についても所得税が課せられるのは、二重に課税されているように感じやすいようです。
これは、(経営における法人と個人の分離という問題もありますが)どちらも自分のものにも関わらず、別の名目で2つの課税が行われていると思うからでしょう。
また、法人はあくまでも法律で作られたもので、実際に存在せず、最終的な所得は個人に行くので、個人だけに課税を行うべきであるという考えもあります。
そして、この問題の背景には、上記の法人に対する見方で生じている問題です。
現在は、法人実在説に基づいて課税が行われているのですが、法人擬制説に立てば、最終的な所得の帰属は個人になるので、二重課税であるという議論になります。
つまり、法人についての見方で、
法人実在説ならば、二重課税ではない
法人擬制説ならば、二重課税である
という話になります。
いずれが正しいかは議論の余地があるところですが、二重課税の議論には、このような法人の見方がその背景にあることには注意が必要です。
参考
小塩隆士『コア・テキスト財政学』
山重慎二『財政学』