はじめに
国にとって、輸出額から輸入額を引いた貿易収支は非常に重要となりますが、発展途上国の多くは、輸出できるものがあまりないため、どうしても貿易収支は赤字になってしまいます。
貿易収支 = 輸出額 - 輸入額
そこで、発展途上国は、工業化により、貿易収支の黒字化を目指すことになるのですが、この式から明らかなように、貿易収支へのアプローチは、大きく分けると、2つあります。
・輸出額を増やす
・輸入額を減らす
これに対応するか形で、発展途上国が、工業化を志向するとき、貿易にあたって、大きく分けると、2つの政策があります。
・輸入を減らして、自国生産を増やし、工業化を図る
・輸出が増えるように、低賃金などを背景に、工業化を図る
前者は、「輸入代替工業化」(幼稚産業保護論)と言われるもので、後者を「輸出志向型工業化」と言います。この2つは、工業化を目指していますが、ある意味、反対の方向性を有した政策となっています。
ここでは、後者の輸出志向型工業化について、説明します。
輸出志向型工業化
貿易パターン
輸出志向型工業化について説明する前に、途上国における、ある財について、生産・貿易のパターンを見てみましょう。
国内需要をD、国内生産をS、輸出額をXとすると、下図のようなパターンをとります(横軸は時間、縦軸Qは量)。
当初は、この国では生産が行われていないため、国内需要Dが高まる中、輸入に頼らざるを得ません。当然ながら、貿易収支は赤字になってしまいます。
ここでt1期に、この国でこの財の生産をスタートさせたとしましょう。国内生産Sが増加するにつれ、国内需要Dと国内生産Sの差が小さくなり、輸入額も減少します。そして、t2期に国内需要と国内生産は一致し、輸入額は0となります。
t2期以降は、国内需要Dよりも国内生産Sのほうが大きく、その差額が輸出Xされることになります。
輸出志向型工業化
輸出志向型工業化(EOI:Export-oriented industrialization)とは、輸出を促進するような政策を行い、工業化を図ろうする政策です。
上記のグラフでいえば、財の生産が始めるt1や輸出が始めるt2を早め、国内生産Sや輸出額Xを左シフトさせる政策と言えます。
具体的な政策としては、輸出を促進したいと思う財が生産・輸出できるかどうかで異なってきます。
(財の生産・輸出が可能な場合)
1つは、低利融資・低税率などの政策で、輸出産業への投資を拡大させるというものです。
もう1つは、補助金の給付や輸出関税率の引き下げで、輸出そのものを拡大させることになります。
また、輸出製品を生産するにあたり、機械や材料などの輸入が必要となることが多いため、それらの輸入については、輸入関税率の引き下げなどを行います。
(財の生産・輸出が困難な場合)
この場合には、自国の企業では輸出ができないため、輸出競争力がある外国企業を誘致し、その外国企業が中心となって、輸出を行うことになります。
外国企業にとってのメリットは、この国の誘致施策に加え、この国の国内需要を取り込め、低賃金などを背景に、安く財を生産・輸出できることになりまり。
まとめ
以上のように、輸出志向型工業化は、輸出を促進して、工業化を図ろうというものです。
輸入代替工業化政策がとん挫する中、1980年代に、このような政策がアジア各国でとられ、経済発展へと導いたとされます。
参考
渡辺利夫『開発経済学入門』