はじめに
異時点間の消費について、$1$期と$2$期の消費を$C_1 \, , \, C_2$、効用関数を$u(C_1 \, , \, C_2)$とし、利子率を$r$とすると、通常の異時点間の最適消費においては、
$\dfrac{u_1}{u_2} = 1 +r$
が成立します。
しかし、行動経済学においては、消費に対する態度は時間によって異なり、現時点に近い消費ほど重視する傾向があることが知られており、双曲割引モデルが提唱されています。
ここでは、上記の異時点間の最適消費が準双曲割引モデルではどうなるかを説明しています。
準双曲割引モデル
1期に意思決定を行うとして、準双曲割引モデルでは、次のような時間割引関数$F(t)$が定義されます。
$F(1) = 1 \quad (t=1)$
$F(t) = \beta \sigma^t \quad (t>1)$
なお、$\sigma \; (0 < \sigma \leq 1)$は割引因子で、$\beta \; (0 < \sigma \leq 1)$はパラメーターとなっています。
このとき、時間割引率は、
$- \dfrac{F(t+1) \; – \; F(t)}{F(t)} = \begin{equation}
\begin{cases}
1 \; – \; \beta \sigma \quad (t=1)\\
\\
1 \; – \; \sigma \quad (t>1)\\
\end{cases}
\end{equation}$
となります。
異時点間の最適消費
1期目に意思決定するとして、1期と2期、2期と3期の消費について考えます。
まずは、1期と2期の消費について、限界代替率と利子は等しくなるので、
$\dfrac{u'(C_1)}{\beta \sigma u'(C_2)} = 1 + r \quad \cdots \quad (1)$
であり、2期と3期の消費については、
$\dfrac{u'(C_2)}{\sigma u'(C_3)} = 1 + r \quad \cdots \quad (2)$
となります。
ここで、$(1)(2)$を比較すると、$(2)$式に比べて$(1)$式においては、左辺の分母に$\beta$がかかっています。
$\beta$は$0 < \sigma \leq 1$なので、2期と3期の消費の関係よりも、1期と2期の消費の関係において、1期の消費よりも、2期の消費からの効用をより大きく割り引くことが分かります。そして、1期と2期の消費を比べたとき、1期の消費をより大きくすることになり、より貯蓄を先送りにします。
言い換えると、この準双曲割引モデルにおいては、意思決定時の1期に、より消費を大きくすることになります。
時間非整合性
ところで、上記において、2期に意思決定をし直すとしましょう。
そうしたときには、
$\dfrac{u'(C_2)}{\beta \sigma u'(C_3)} = 1 + r$
となり、$(2)$式とは、異なる消費となります。
すなわち、意思決定するタイミングにより、その行動が異なり、準双曲割引モデルによる異時点間の最適消費問題については、時間非整合性があるとされます。
参考
大垣昌夫・田中沙織『行動経済学』