はじめに
経済学の目的の1つは、財の配分をどうするかということであり、その配分に格差はないか、不平等はないかという点が問題になります。
特に、格差・不平等といったとき、様々なものがありますが、分かりやすいのは所得です。富裕と貧困が現実にある中で、経済学は平等を目的としているわけではないのですが、行き過ぎた格差はやはり問題とされるでしょう。また、格差があるにしても、政策として、再配分を行い、その格差をどれだけ縮小するかが、政府の1つの役割だとも言えます。
このように、格差や不平等は、経済学において大事なテーマなのですが、そもそも格差・不平等をどのように測定するかが、問題になります。
この測定方法について、簡単なものとして、変動係数がありますが、バラツキ度合いを測っているだけで、格差や不平等を測っているわけではありません。
そこで、不平等や格差を測る上でポピュラーなものとして、ローレンツ曲線とジニ係数があります。
以下では、人口と所得を例に、ローレンツ曲線とジニ係数を説明していきましょう
ローレンツ曲線
まずは、全人口のうち1人の比率を考え、その人の国民全員の所得に対する比率を求めます。
そして、それを所得の低い順に並べて、人口と所得の比率を足し合わせていくことを考えます。
例えば、最も所得の低いA氏、次に所得の低いB氏を考えてみましょう(なお、所得に対する比率は適当な数値です)。
A氏 : 人口に対する比率 1人÷1億2千万人×100(%) 所得に対する比率 0.0001%
B氏 : 人口に対する比率 1人÷1億2千万人×100(%) 所得に対する比率 0.0002%
累積(A氏+B氏) : 人口に対する比率 2人÷1億2千万人×100(%) 所得に対する比率 0.0003%
このように、各人の人口と所得の比率を足し合わせていき、累積したものを求めていきます。そして最終的には、人口も所得も100%になります。
この累積した比率を図にすると、次のような「ローレンツ曲線」を描くことができます。
縦軸も横軸も累積した比率なので、最終的には100%になります。
しかし、直線になるかと言えば、通常は、そうはなりません。例えば、人口の20%の人の所得を合計しても、所得の比率は20%にならないからです。なので、このローレンツ曲線の形状が不平等度や格差を表しているとされます。
そして、ローレンツ曲線が右下に歪曲するほど、不平等は大きくなります。極端なことを言えば、全人口のうち1人が、全所得を占めているとき(残りの人は所得なし)には、ローレンツ曲線は横軸が100%のところで垂直線になります。
逆に、平等であればあるほど、45度線にローレンツ曲線は近づきます。
極端なものとして、全員が平等ならば、例えば、人口比率40%に対して、所得の比率も40%になるからです。
このような完全な平等の場合の線を「完全平等線」と言います。
以上のように、累積比率を求めて、図にしたとき、ローレンツ曲線が描け、ローレンツ曲線が45度線から、どれだけ離れているかで、平等・不平等を判断することができます。
ジニ係数
ローレンツ曲線を見れば、不平等度が分かるのですが、数値化されていないため、どうしようもない部分があります。
そこで、ローレンツ曲線の考えをもとに、不平等度の指標となるのが、「ジニ係数」です。
上記の図で、ローレンツ曲線が右下に歪曲するほど、不平等であることから、ローレンツ曲線と完全平等線の間の領域Aの大きさが、不平等度を表していると言えます。
そして、全体の領域A+Bに対して、不平等度の領域Aがどのぐらいあるかを計算し、指標化したのが「ジニ係数」になります。
ジニ係数 = A ÷ ( A + B )
この式から、ジニ係数の値は0から1の間をとり、1に近いほど、不平等とされます。
特に、
ジニ係数が1のとき ⇒ Bの領域がなくなり、すべてがAで占められている状態
ジニ係数が0のとき ⇒ Aの領域がなくなり、すべてがBで占められている状態
(ローレンツ曲線と完全平等線が一致)
となります。
実際のジニ係数の例
ジニ係数については、厚生労働省の「所得再分配調査」(平成29年)で、実際の数値を見てみましょう。
厚生労働省「所得再分配調査」
全世帯・高齢者世帯・母子世帯・その他の世帯で、当初の所得と再配分施策を行った後のジニ係数が計算されています。
例えば、当初所得では、高齢者世帯のジニ係数が、0.7828となっており、高齢者世帯では所得格差が非常に大きいことが分かります。
しかし、再配分施策により、すべての世帯でジニ係数は低下しており、所得格差が減少していることが見て取れます。
参考
中村隆英『統計入門』