はじめに
企業活動において、販売を行う前に、商品を用意するため、仕入れを行う必要があります。
ただ、多く仕入れると、その分、在庫を多く持つことになり、逆に仕入れを少なくすると、欠品が生じて、チャンスロスが発生するリスクがあります。
なので、企業活動においては、在庫の量をどのぐらい持ったらいいかという問題が生じます。
このとき、都度都度、仕入れを行うこともありますが、次のように2つの発注方法があります。
・定期発注:定期的に発注を行う
・定量発注:毎回同じ量を発注する
そして、定量発注について、「経済的発注量」(Economic Order Quantity)というものがあります。
毎回、どれだけの量を発注すればいいかというもので、基本的な公式として、生み出した人の名から「ウィルソンのロット公式」があります。
在庫管理の基本的な公式で、経営学やORで登場するものですが、経済学のモデルでも、時折、登場しますので、説明したいと思います。
ウィルソンのロット公式
ある商品の年間の需要量を$R$とします。これを1年を通じて、仕入れていくことになります。
商品を毎回$x$個ずつ仕入れるとすると、1年間の仕入れ回数$n$は、次のようになります。
$n = \dfrac{R}{x}$
ところで、仕入れや在庫の保管に費用が発生するとします。
在庫管理費用を$T(x)$として、発注費を$U(x)$、保管費を$V(x)$とすると、次のようになります。
$T(x) = U(x) + V(x)$
発注費においては、発注1回あたりの費用を$c$とすると、1年間に$n$回発注があるので、$U(x)$は、次のようになります。
$U(x) = c \cdot \dfrac{R}{x}$
保管費においては、商品在庫1当たりの費用を$t$とすると、1回発注を行うと、在庫はどんどんと減っていきますが、平均的には$x/2$個の在庫があることになるので、$V(x)$は、次のようになります。
$V(x) = t \cdot \dfrac{x}{2}$
これらから、在庫管理費用$T(x)$は、次のようになります。
$T(x) = c \cdot \dfrac{R}{x} + t \cdot \dfrac{x}{2}$
この式から、1回当たりの発注量$x$を増やすと、発注費(右辺第1項)は減少しますが、その分在庫が増えるので、保管費(右辺第2項)は増加することになります。
そして、在庫管理費用を最小化したいので、この式を$x$で微分し$0$とすると、
$\dfrac{d \, T(x)}{d \, x} = \, – \, \dfrac{cR}{x^2} + \dfrac{t}{2} = 0$
から、最適な経済的発注量$x^*$を得ることができます。
$x^* = \sqrt{\dfrac{2cR}{t}}$
またこのとき、1年間の発注回数$n^*$は、次のようになります。
$n^* = \sqrt{\dfrac{tR}{2c}}$
これらの式から、単位当たりの発注費$c$が大きいと、できるだけまとめて発注したほうがいいので、発注回数$n^*$を減らし、1回当たりの発注量$x^*$は増やしたほうがいいことになります。
他方、単位当たりの保管費$t$が大きいと、あまり在庫は持たないほうがいいので、発注回数$n^*$を増やして、1回当たりの発注量$x^*$は少なくした方がいいことが分かります。
別の求め方
上記では、微分を用いましたが、微分をせずとも、経済的発注量を求めることができます。
$a>0$、$b>0$のとき、次が成立するという、「相加相乗平均の不等式」というものがあります。
$a+b \geq 2\sqrt{ab}$
これを、上記の在庫管理費用$T(x)$、発注費$U(x)$、保管費$V(x)$に当てはめます。
$T(x) = U(x) + V(x) \geq 2\sqrt{U(x) \cdot V(x)} = 2\sqrt{c \cdot \dfrac{R}{x} \cdot t \cdot \dfrac{x}{2}} = \sqrt{2 c \cdot R \cdot t}$
右辺の$\sqrt{2 c \cdot R \cdot t}$には$x$は入っていないので、この値は、在庫管理費用の最小値を示しています。
ところで、この式には、不等号になっていますが、等号が成立するのは、$(x) = V(x)$のときであり、
$c \cdot \dfrac{R}{x} = t \cdot \dfrac{x}{2}$
となります。この式を解くと、
$x = \sqrt{\dfrac{2cR}{t}}$
であり、上記の微分を使った場合と同様の経済的発注量の式を得ることができます。
まとめ
モデルとしては、簡単ですが、在庫管理のモデルとしては、基本的なものになります。
また、あくまでも、在庫管理のモデルですが、1年間に必要な現金の量、ATM手数料、利子の機会費用を考えれば、1年間にATMに行く回数やそのときの引き出し額を計算できたりもします。
経営学に近い理論ですが、簡単なので、覚えておいてもいいでしょう。
参考
加藤豊・加藤理『はじめてのオペレーションズ・リサーチ』
大堀隆文・加地太一・穴沢務『例題で学ぶ OR入門』