はじめに
投資を行うにあたって、いかにリスクを下げながら、高い利益を上げるかが非常に重要です。
このときに言われるのが、「分散投資」という言葉です。投資先を1つに絞るのではなく、できるだけ多くした方が、リスクを下げることができるというものです。
名言としても、
「卵は一つのカゴに盛るな」
という言葉があり、分散投資という考えは大事です。
とはいえ、いくら投資を分散しても、必ずしもリスクを下げることができるかと言えば、そういうわけではありません。
株式投資を考えたとき、複数社に投資先を分けることは、この分散投資の考えに立脚することになりますが、その複数社がすべて建設会社であるときには、リスク低下させる効果は小さくなるでしょう。
逆に、株式と債券に投資を分けたときには、これらは逆の値動きをすることが多いので、リスクを下げることが期待できます。
このように、分散投資は大事ですが、その内容もしっかりと考えていく必要があります。
そして、これを経済学的・数学的に証明できます。いくつもの証券にも当てはめることができますが、2つの証券(証券と言ってますが、投資先と考えても同じです)について、説明したいと思います。
ポートフォリオ
基本
AとBという2つの証券があるとします。そして、それぞれの収益を$r_1 \, , \, r_2$として、リスクを$\sigma_1 \, , \, \sigma_2$とします。リスクは、収益がどのぐらい変化するということになるので、その分散で表現されます。
これを、横軸をリスク$\sigma$、縦軸を収益$r$とすると、次のような図になります。
なお、この場合、証券Aはリスクは低いのですが、その分、収益も低く、証券Bはリスク・収益ともに、証券Aのほうが高いとしています。

ここで、証券Aと証券Bについて、分散投資をする場合を考えます。証券Aへの投資比率を$w_1$、証券Bへの投資比率を$w_2$とすると、このポートフォリオ(分散投資)の収益$r$は、次のようになります(なお、$w_1 + w_2 = 1$とします)。
$r = w_1 r_1 + w_2 r_2$
そして、このポートフォリオのリスク$\sigma$は、この式より、次のようになります。
$\sigma = w_1^2 \sigma_1^2 + w_2^2 \sigma_2^2 + 2 w_1 w_2 Cov(r_1 \, , \, r_2)$
ここで、2つの証券についての相関係数を$\rho$とすると、
$\rho = \dfrac{Cov(r_1 \, , \, r_2)}{\sigma_1 \sigma_2}$
という相関係数の定義により、ポートフォリオのリスクは、次のようになります。
$\sigma = w_1^2 \sigma_1^2 + w_2^2 \sigma_2^2 + 2 w_1 w_2 \rho \sigma_1 \sigma_2$
ここで重要なのが、この式において、相関係数$\rho$があり、2つの証券の間の相関が、ポートフォリオのリスクに大きな影響を与えているということです。
相関係数は、$- \, 1 < \rho < 1$であることから、それぞれの場合において、場合分けをして考えましょう。
相関係数の場合分け
($\rho = 1$のとき)
まずは、$\rho = 1$の場合を考えましょう。正の相関があり、それぞれの証券が同じような動きをした場合になります。
そして、数式では、次のようになります。
$\sigma = (w_1 \sigma_1 + w_2 \sigma_2)^2$
図で表すと、次のようになります。

ポートフォリオはAとBの間で組まれ、その投資比率に応じて、収益とリスクを負うことになります。あくまでも比例的であり、ポートフォリオを組んでも、リスクの分散効果は得られないことになります。
($\rho = – \, 1$のとき)
逆に、$\rho = – \, 1$のときには、証券Aと証券Bは、まるっきり反対の値動きをする場合です。
このとき、数式では、次のようになります。
$\sigma = (w_1 \sigma_1 \, – \, w_2 \sigma_2)^2$
ここで、右辺の二乗内にマイナスが登場していることが大きなポイントです。
$w_1 + w_2 = 1$に注意すると、保有比率について、
$w_1 = \dfrac{\sigma_2}{\sigma_1 + \sigma_2} \quad , \quad w_2 = \dfrac{\sigma_1}{\sigma_1 + \sigma_2}$
とした場合には、
$\sigma = 0$
となり、ポートフォリオのリスクをゼロにすることができます。
これを図で表すと、次のようになります(Rはリスクをゼロになるようにしたときのポートフォリオです)。

($- \, 1 < \rho < 1$のとき)
完全に相関する場合や完全に負の相関をする場合は、実際にはありえないでしょう。現実的には、$- \, 1 < \rho < 1$となることがほとんどです。
このときの状況を図で表すと、上記の$\rho=1$や$\rho=-\,1$の議論を考えると、次のようになるでしょう

点Aと点Bを結んだ直線よりも、凸の形状をしたところで投資が行われることになります。そして、リスクは減少していることが分かります。
数式で考えれば、$\rho =1$のときには、ポートフォリオのリスクは$(w_1 \sigma_1 + w_2 \sigma_2)^2$であることを考えると、
$\sigma = w_1^2 \sigma_1^2 + w_2^2 \sigma_2^2 + 2 w_1 w_2 \rho \sigma_1 \sigma_2 < (w_1 \sigma_1 + w_2 \sigma_2)^2$
であり、$\rho \neq 1$である限り、ポートフォリオのリスクは減少していることが分かります。
有効フロンティア
ところで、$- \, 1 < \rho < 1$の場合には、すべての投資比率が有効ではありません。
図を見てみると、点Cよりも下の方の部分では、収益は低く、リスクは大きい状態です。ですので、点Cと点Bの間で投資比率が決定され、ポートフォリオが組まれるはずです。

そして、この点Cと点Bを結んだ線を「有効フロンティア」(効率的フロンティア)と言います。
参考
釜江廣志(編集)『入門証券市場論』
デービッド G.ルーエンバーガー『金融工学入門』
津田博史(監修)、小松高広(著)『最適投資戦略』