逆需要関数
通常、経済学においては、ある価格を元に、需要量が決定されるという「需要関数」が用いられます。
需要量を$x$、価格を$p$とし、需要関数を$D$とすると、数式では、次のようになります。
$x = D(p)$
ところで、この式を見たら分かるように、次のように、$x$と$p$を入れ替えることができるのではと思います。
$p = d(x)$
このときの$d$を「逆需要関数」と言います。
例えば、次のような需要関数があるとします。
$x = 10 \, – \, 2p$
これを式変形すると、
$p = 5 \, – \, \dfrac{1}{2}x$
とでき、これが逆需要関数になります。
支払意思額(WTP)
単に式を変形しただけと思うかもしれませんが、そうではありません。
通常の需要関数では、ある価格が与えられたとき、消費者は需要量を決定するという式になりますが、逆需要関数では、ある需要量のときに価格がどうなるかを示します。
これでは消費者が価格を決定することになり、変な感じもあります。しかし、消費者にとって、ある需要量のとき、どのぐらい支払っていいのかと考えれば、変な話ではありません。
例えば、ある商品を購入するときに、5個買うときよりも10個買うときのほうが多く買うのだから、価格を安くしてほしい、価格が安いならば買うということは、ありうる話です。
逆需要関数は、このような意味合いをもった関数となっています。
そして、消費者が支払っていい金額を示しているので、逆需要関数における価格を「支払意思額」や「WTP」(willing to pay)と言います。
逆需要関数が使われる場合
一般的には、経済学では需要関数が使われますが、ここで企業行動を考えましょう。
企業においては、通常は、ある価格のもと、生産量を決定します(いわゆる「プライステイカー」)。
しかし、独占企業においては、自由に価格と生産量を調整することができます。もっと言えば、独占企業は生産量を調整して、価格を自由に決定します。
そのときには、ある生産量にしたときに、消費者はどのぐらいの価格を求めるかを知りたいと思うでしょう。
このように、経済学において、独占企業を想定したときに、逆需要関数が用いられます。
また、差別価格を導入しようとするときにも、逆需要関数が用いられます。
例えば、2人の消費者AとBがおり、需要関数が異なっている場合を考えましょう。
消費者A:$x_A = 10 \, – \, 2p$
消費者B:$x_B = 10 \, – \, 5p$
通常ならば、この2人の消費者は、ある価格のもとで、異なった需要量となります。
ここで、この2人の消費者の逆需要関数を求めると、
消費者A:$p = 5 \, – \, \dfrac{1}{2}x_A$
消費者B:$p = 2 \, – \, \dfrac{1}{5}x_B$
であり、それぞれに割り当てる$x_A$と$x_B$を決めれば、それぞれの消費者への価格を決定することができます。
留意点
ところで、ある需要関数があったとき、その逆需要関数が存在するとは、必ずしも言えません。
数学でいえば、逆関数の問題であり、需要関数の$p$と$x$が1対1対応している必要があります。
経済学的に言えば、通常は価格が上がれば、需要量は減るという関係が常に成立していれば、1対1対応するので、需要関数が単調減少関数であれば、逆需要関数は存在することになります。
言い換えれば、需要関数が単調減少関数でなければ、逆需要関数は存在しないことになります。
参考
奥野正寛(編著)『ミクロ経済学』
奥野正寛・鈴村興太郎『ミクロ経済学Ⅱ』