はじめに
ミクロ経済学の消費者行動において、需要関数と補償需要関数の2つの需要関数が登場します。
どちらも需要関数で、言葉も似ていますが、「補償需要関数」には「補償」という言葉がついている通り、違う需要関数です。
結論から言えば、それぞれの需要関数の違いは、次の通りです。
需要関数 … 効用最大化問題から得られた需要
補償需要関数 … 費用最小化問題から得られた需要
ところで、具体的にどう違うのかは、イメージがつきにくい感じがあります。
そこで、効用関数を特定化して、どこがどのように違うのかを説明したいと思います。
需要関数と補償需要関数
2財$x \, , \, y$について、それぞれの価格を$p_x \, , \, p_y$とします。
そして、違いを見るために、効用関数が$\sqrt{x \, y}$、所得が$E$であるときに、それぞれの需要関数を求めていきましょう。
需要関数
まずは、需要関数を求めていきますが、このときの消費者の効用最大化問題は、次のようになります。
$\displaystyle \max_{x \, , \, y} \sqrt{x \, y}$
$s.t. \quad p_x x + p_y y = E$
この式を解くために、ラグランジュ関数$L$を定義すると、
$L = \sqrt{x \, y} \, – \, \lambda(p_x x + p_y y \, – \, E)$
であり、一階条件を求めると、次を得ることができます。
$\dfrac{y}{x} = \dfrac{p_x}{p_y}$
これを予算制約式に代入し、整理すると、2財の需要関数を得ることができます。
$x = \dfrac{E}{2 p_x}$
$y = \dfrac{E}{2 p_y}$
補償需要関数
次に補償需要関数を求めて生きたいと思いますが、需要関数との違いは、一定の効用$\bar{u}$のもと、予算制約式を最小化することになります。
$\displaystyle \min_{x \, , \, y} \quad p_x x + p_y y$
$s.t. \quad \sqrt{x \, y} = \bar{u}$
この式を解くために、ラグランジュ関数$L$を定義すると、
$L = p_x x + p_y y \, – \, \lambda(\sqrt{x \, y} \, – \, \bar{u})$
であり、一階条件を求めると、次を得ることができます。
$\dfrac{y}{x} = \dfrac{p_x}{p_y}$
この一階条件自体は、上記の効用最大化問題をした場合と同じになっています。
ただ、補償需要関数を求めるための費用最小化問題においては、一定の効用という制約式に代入することになり、2財の補償需要関数は、次のようになります。
$x = \sqrt{\dfrac{p_y}{p_x}}\bar{u}$
$y = \sqrt{\dfrac{p_x}{p_y}}\bar{u}$
違い
以上をまとめると、次のようになります。
需要関数:$x = \dfrac{E}{2 p_x}$ 、 $y = \dfrac{E}{2 p_y}$
補償需要関数:$x = \sqrt{\dfrac{p_y}{p_x}}\bar{u}$ 、 $y = \sqrt{\dfrac{p_x}{p_y}}\bar{u}$
これらを見て分かるように、需要関数では$E$が、補償需要関数では$\bar{u}$が入っています。また、式の形状も、需要関数では$2$という数値が入っていたり、補償需要関数ではルートになっていたりと、相違点があります。
ということで、やはり需要関数と補償需要関数は、名称は似ていますが、違うものであることが分かります。
一般型
なお、上記では効用関数を$\sqrt{x \, y}$と特定化ししましたが、一般型では、次のようになります。
需要関数:$x =D(p_x \, , \, p_y \, , \, E)$、$y =D(p_x \, , \, p_y \, , \, E)$
補償需要関数:$x =D(p_x \, , \, p_y \, , \, \bar{u})$、$y =D(p_x \, , \, p_y \, , \, \bar{u})$
どちらを使えばいいのか?
ところで、違いがあることは分かりましたが、どちらの需要関数を使ったらいいのでしょうか。
実証的に考えたときには、需要関数のほうが使いやすいことが分かるでしょう。
補償需要関数では$\bar{u}$というものが入っていますが、数値で図ることができず、統計データを得ることもできませんので、そのまま補償需要関数を求めることができません。
他方、需要関数では$E$が入っていますが、所得なので、統計データを得たりすることもできるので、実証的には需要関数の方が、推計をしやすいことになります。
ただ、政策の効果や変化などを見るときには、補償需要関数を用いられることもあります。
例えば、2時点のデータがあったとき、効用は一定のままなので、2時点のデータの差をとれば、$bar{u}$はキャンセルされるので、実証でも推計することができます。
このように、補償需要関数では、そのままでは使うことはできませんが、$bar{u}$をキャンセルできれば、実証でも利用ができます。
以上のように、違いはあります、目的によって、それぞれの需要関数を使い分けることになります。
参考
奥野正寛(編著)『ミクロ経済学』
武隈愼一『ミクロ経済学』