投資貯蓄バランス(ISバランス)
「投資貯蓄バランス」とは、マクロ経済において、投資や貯蓄などに関する関係式です。
なお、英語で投資はInvestment、貯蓄はSavingなので、「ISバランス」とも呼ばれています。
国内総生産 $ Y$ 、消費 $ C$ 、投資 $ I$ 、政府支出 $ G$ 、輸出 $ X$ 、輸入 $ M$ とすると、国民経済の支出面を考えると、次式が成立します。
$ Y = C + I + G + X – M$
ここで、貯蓄 $ S$、租税 $ T$ とすると、所得 $ Y$から、租税 $ T$ を差し引いたものが可処分所得でとなり、そこから消費 $ C$ に回った分を除けば、貯蓄 $ S$ が得られるので、次式が得られます。
$ S = Y – C – T$
これを上記の式に代入すると、
$ (S- I) = (G – T ) + (X – M)$
という式が得られます。
これが「投資貯蓄バランス」 というもので、アルファベットではなく、日本語で表すと、次のような関係式となります。
貯蓄超過 = 財政赤字 + 経常収支黒字
式の注意点
投資貯蓄バランスにおいて、注意点があります。
この式は恒等式であり、因果関係を表しているものではありません。
ですので、正確に表記すれば、次のような関係式です。
$ (S- I) – (G – T ) – (X – M) = 0$
日本語で表すと、次のような、いくつかの形で表記できます。
貯蓄超過 - 財政赤字 - 経常収支黒字 = 0
貯蓄超過 + 財政黒字 - 経常収支黒字 = 0
-投資超過 - 財政赤字 - 経常収支黒字 = 0 などなど
財政赤字の場合
この投資貯蓄バランスで、財政赤字である場合を考えてみましょう。
まずは議論を簡略化するため、経常収支黒字は0とします($ X=M$)。このとき、投資貯蓄バランスは、次式のようになります。
$ (S- I) = (G – T)$
財政赤字であり、政府は租税以上に支出超過をしているとすると、$ G \gt T$ であるので、
$ (S- I) = (G – T) \gt 0$
となります。すなわち、$ S \gt I$ が成立しており、貯蓄が投資を上回ることになります(貯蓄超過)。
このことから、財政赤字で租税以上に政府支出をしているような経済状態では、どんどんと民間貯蓄は増えていく形になります。民間はどんどんとお金を貯める状態であり、お金があるので、金融機関から資金を借りる必要はないということになります。
まとめ
現在はコロナ禍で分かりにくくなっていますが、財政赤字により、金余りが生じ、資金需要はないので金利は低金利のままという少し前の日本経済の状況が、意外に簡単に投資貯蓄バランスを考えれば、見えてくるような気がしています。
とはいえ、上記で述べたように、あくまでも恒等式であり、その因果関係は分からないため、注意が必要です。
参考
鴇田忠彦・藪下史郎・足立英之『初級・マクロ経済学』