ランダム・ウォーク・モデル
時系列分析において、ランダム・ウォーク・モデルというものがあります。
時系列データ$y_t$について、攪乱項を$u_t$としたとき、
$y_t = y_{t-1} + u_t$
というモデルです。
なお、攪乱項は、ホワイト・ノイズであり、
$E(u_t) = 0$
$Var(u_t) = \sigma^2$
$Cov(u_t u_s) = 0 \quad (t \neq \ s)$
となっています。
$t$期の値は、1期前の$t-1$の値と攪乱項で形成されるという形で、モデルとしては、非常にシンプルで、分かりやすい形になっています。
特徴・意義
攪乱項の和
ランダム・ウォーク・モデルは、式変形すると、次のようになります。
$\displaystyle y_t = y_0 + \sum_{t=1}^t u_t$
このことから、ランダム・ウォーク・モデルは、初期値に攪乱項の和を加えたモデルになっています。言い換えると、初期値から、過去の攪乱項の影響が積み重ねられ、$t$期の値となっているモデルと言えます。
更に、期待値・分散・自己共分散$\gamma(s)$・自己相関$\rho(s)$は、次のようになります。
$E(y_t) = y_0$
$Var(y_t) = t \sigma^2$
$\gamma(s) = (t \; – \; s) \sigma^2$
$\rho(s) =\sqrt{\dfrac{t \; – \; s}{t}}$
期待値は初期値でなのですが、時間$t$が大きくなるほど、分散は比例的に大きくなります。それに合わせ、期間差が大きくなるほど、自己共分散も大きくなります。ただ、自己相関は、$t$を所与としたとき、$t$から離れるほど、値は小さくなり、減衰することが分かります。
単位根
モデルとしてはシンプルですが、このモデルは、
$y_t = \phi y_{t-1} + u_t$
としたとき、$\phi=1$であり、単位根を有し、非定常なモデルになっています。
なので、時系列モデルとしては、面白くないモデルとなっています。
ランダム・ウォーク仮説
時系列データ$y_t$がトレンドなどを有せず、情報がすべて織り込まれているとするならば、そのデータは変動することはなく、攪乱項にのみ、依存することになります(これを、ランダム・ウォーク仮説と言います)。
この論理について逆に考えれば、このモデルに従っていれば、そのデータは、情報がすべて織り込まれていると考えられます。
命題 : 情報は織り込み済 ⇒ データは攪乱項のみで表現できる
逆 : データは攪乱項のみで表現できる ⇒ 情報は織り込み済
ゆえに、データがランダム・ウォーク・モデルに従っているかどうかで、そのデータは情報がすべて織り込み済みかどうかを見ることができ、すべて織り込み済みである状態を効率的とすれば、そのデータが効率的かどうかが分かります。
すなわち、あるデータが、ランダム・ウォーク・モデルかどうかを調べることで、データのベースとなる市場が効率的かどうかが分かることになります。
まとめ
ランダム・ウォーク・モデルは、時系列モデルとしては、非定常で面白くないモデルですが、過去の攪乱項(ホワイト・ノイズ)の積み重ねであり、データやその元となる市場の効率性を調べることができるなど、特徴的なモデルになっています。
参考
山本拓『経済の時系列分析』
羽森茂之『ベーシック計量経済学』