はじめに
経済学において、ある経済主体を望ましい方向に導くことが必要とされる場合があります。
例えば、企業は労働者に対して、より仕事をしっかりとやるように促す必要があったり、消費者は企業に対して、よりよい製品を安価に提供するように求めたりします。
通常はこのような場合、経済学においては、金銭的インセンティブにより、経済主体を望ましい方向に導こうとします。
しかし、行動経済学においては、このような金銭的インセンティブは効果が発揮しなかったり、むしろマイナスの効果をもたらす可能性を示しています。
2つのモチベーション
ある経済主体を導こうとするとき、何らかのインセンティブを付与して、そのモチベーションに働きかけることになりますが、行動経済学においては、外発的モチベーションと内発的モチベーションがあるとされます。
(外発的モチベーション)
外発的モチベーションは、個人の外部からもたらさせるもので、動機付けられるモチベーションのことです。
最も分かりやすいのが、お金です。給料や賃金があるから、働くといった具合です。
しかし、非金銭的なもの以外にも、外発的モチベーションがあります。社会的成功や社会的承認のような社会的報酬であったり、逆に脅迫・脅しなどの身体的な脅威なども、外発的モチベーションになります。
(内発的モチベーション)
内発的モチベーションは、個人の内部から生じるモチベーションです。
目標や目的などから発生したりするモチベーションで、喜びや楽しさなどからも生まれるモチベーションとされます。
そしてこの2つは、独立しているのではなく、相互に関連しあっているとされます。
内発的モチベーションのクラウディング・アウト
行動経済学においては、外発的モチベーションにより、内発的モチベーションがクラウディング・アウトすることがあるということが知られています。
パズルを解くという実験において、報酬を支払うグループと無報酬のグループに分けたとき、後者の無報酬のグループの中には、前者の報酬をもらえるグループの者よりも、高い成績を出す場合があることが知られています。
また、少額の報酬を支払うと、逆にパフォーマンスが落ちるという結果もあります。
保育園での実験でも、保護者が子供を迎えに来る時間を守らせるため、遅刻をした親に罰金を科したところ、むしろ遅刻をする親が増えたというものがあります。罰金という外発的モチベーションを与えたところ、罰金は遅刻を認めてもらうためのサービスと認識されるようになったとされます。
イメージ・モチベーション
上記は、外発的モチベーションによるマイナスの効果ですが、社会的評価が上がるような外発的モチベーションの場合には、パフォーマンスが上がることがあるともされます。
単純作業を行わせた実験で、作業により慈善事業に寄附が行われるというものです。
グループ分けして、パフォーマンスが良ければ、自身も報酬を得られるというグループと、無報酬のグループに分けて、実験が行われました。また、そのパフォーマンスが他の参加者に公表されるグループとそうではないグループでに分けられました。
すなわち、次の4つのグループがあることになります。
①報酬なし、公表される
②報酬あり、公表される
③報酬あり、公表されない
④報酬なし、公表されない
このとき最も成績が良かったのは、①の報酬はないが、公表されるというグループでした。逆に最もパフォーマンスが悪かったのが、④の報酬もなく、公表もされないというグループです。
そしたら、報酬がある場合の②と③では、公表されるというグループのほうが成績が良かったとされます。
(パフォーマンス結果)
① > ② > ③ > ④
このことから、金銭的インセンティブを与えると外発的モチベーションはクラウディング・アウトされますが、パフォーマンスの公表・非公表という要素を入れると、①の報酬なし・公表されるよりも低パフォーマンスですが、④の報酬なし・非公表よりも高いパフォーマンスを示す結果になっています。
参考
ミシェル・バデリー『行動経済学』