スラッジ
人々の行動をより良い方向に導くものとして、「ナッジ」が注目されていますが、その反対のものとして、「スラッジ」があります。
スラッジとは、
「選択アーキテクチャーの要素のうち、選択をする当人の利益になるような結果を得にくくする摩擦や障害を生むすべての側面」
というものです。
ナッジが、選択を行った結果、当人に利益をもたらすのに対して、スラッジはそれを妨害したり、むしろ不利益をもたらすものと考えられます。
しかし、現実世界においては、スラッジが多くあります。そして中には、意図的にスラッジが組み込まれていたりもします。
スラッジの例
【例】行政手続き
スラッジがみられる例として、特に多いのが行政手続きです。役所に何かの申請や手続きを行わなければならないとき、何枚もの書類を用意しなければならないことがあります。しかも、書き方が難しかったりと、申請しにくい状態になっていることが多いです。
コロナ禍にあって、事業者に持続化給付金が支給されましたが、その手続きが面倒などといったニュースを見ましたが、スラッジの1つの例と言えるかもしれません。
【例】解約
一定期間、企業が無料でサービスを提供している場合がありますが、解約方法を分かりにくくする、解約の手続きを煩雑にするというのは、まさしくスラッジです。
また、解約し忘れを狙うために、何も通知しないというのも、スラッジに含まれるかもしれません。
これは、無料サービスだけではなく、メルマガ登録、アカウント登録など、いろいろなところで見られます。
【例】キャッシュバック
ある買い物をしたとき、後から一定額を返金し割引をするという場合があります。
このとき、現金で渡したり、口座振り込みということもできるのでしょうが、小切手で返金が行われたりもします。そうすると、それを受け取り、金融機関に換金をしに行く必要があります。
(日本では、あまりないような感じもありますが、私も先般、あるサービスの割引で、郵送で送られてきた小切手を換金しました)
【例】プリンターの替えインク
プリンターを安く見せて、高いインクを販売するというものです。ビジネスモデルとしては素晴らしいのですが、消費者の側から見ると、スラッジと言えます。
「覆い隠された要素」と言えるもので、大事な部分を隠したまま行動を起こさせるというものです。
【例】オプトインのデフォルト化
企業がメール広告を送るにあたり、日本ではオプトイン方式と言って、メールを受け取ることを了解した消費者にのみ、メール広告を送ることができます。
しかし、その諾否にあたり、チェックを外さないと、了解したことになる場合があります。
また、ソフトウェアをPCにインストールするにあたり、チェックを外さないと、自動的に他のソフトウェアもインストールされてしまうということがあり、これらはスラッジと言えるものです。
【例】税金
税金も1つのスラッジと言えるでしょう。
申告・手続きの煩雑さや面倒さもありますが、仕組み自体が非常に複雑でややこしく、本当に国は税金を支払ってほしいのかという気さえします。
税金は、日本国憲法において、「国民の義務」の1つとされるので、誰もが簡単に納税できるような仕組みにする必要があると思うのですが、むしろ逆になっているように思います。
参考
リチャード・セイラー、キャス・サンスティーン『NUDGE 実践 行動経済学 完全版』