ソロモン王のジレンマ
ソロモン王は、古代イスラエルの王様で、古代イスラエルの最盛期を築いたとされる人物です。このソロモン王の逸話として、旧約聖書に登場するのが「ソロモン王のジレンマ」です。
これは、次のような逸話となっています。
ある2人の女性がおり、それぞれに子供が1人いましたが、不慮の事故で一方の女性の子供が亡くなってしまいました。
そして、子供を失った女性が、もう1人の女性の子供を自分の子供だと言い出しました。それぞれの女性は、生きている子供が自分の子供どうかは知っていますが争いになり、その裁定をソロモン王に願い出ました。
本当の母親は自分の子供を守るため、偽物の母親はうまくソロモン王を騙せば、その子を自分の子供にすることができます。2人の女性はそれぞれ自分の子供だと主張しますが、ソロモン王は、どちらが本当の母親であるかは知りません。
そこで、ソロモン王は、次のような裁定を行います。
「子供を真っ二つに切り裂いて、それぞれの女性に半分ずつ引き渡す」
これを聞いた偽物の母親は、
「相手の女性に子供を渡すぐらいなら、子供を切り裂いてください」
と言い、本物の母親は、
「子供を殺すぐらいなら、相手の女性の子供を渡して下さい」
と言いました。
これを聞いたソロモン王は、後者の「子供を殺すぐらいなら、相手の女性の子供を渡して下さい」と言った女性を本物の母親だと見抜きました。
子供を殺すという選択肢を導入することで、本物の母親を見出したソロモン王の知恵を示すものとなっています。
ゲーム理論における結果
上記の逸話は素晴らしいのですが、ゲーム理論で考えれば、上記のような答えにはなりません。
それを説明するため、この逸話におけるルールを整理しましょう。
(ルール)
①どちらの女性も自分の子供だと主張した場合、子供は殺される
②一方の女性のみが自分の子供だと主張した場合、その女性が子供を手に入れられる
③本物の母親は、偽物の母親に子供が渡っても、子供が生きていたときのほうを望む
これを踏まえて、本物・偽物の母親の行動を考えましょう。
(偽物の母親の行動)
偽物の母親においては、次のような行動パータンとそれによる結果を得ることになります。
・母親であると主張しない ⇒ 子供が手に入らない
・本物の母親が自分の子供だと主張し、自分も自分の子供であると主張する ⇒ 子供は殺される
・本物の母親が自分の子供だと主張せず、自分は自分の子供であると主張する ⇒ 自分の子供になる
この結果を考えると、偽物の母親にとっては、「自分の子供だと主張」したほうがいいことになります(これが支配戦略になります)。自分の子供だと主張しなければ、子供は手に入らず、本物の母親が自分の子供だと主張しても、子供が手に入らないことには変わりはないからです。
(本物の母親の行動)
他方、本物の母親においては、次のような行動パータンとそれによる結果を得ることになります。
・母親であると主張しない ⇒ 子供が手に入らない(しかし、子供は生きている)
・偽物の母親が自分の子供だと主張し、自分も自分の子供であると主張する ⇒ 子供は殺される
・偽物の母親が自分の子供だと主張せず、自分は自分の子供であると主張する ⇒ 自分の子供になる
本物の母親にとっては、偽物の母親の主張により、子供は殺されるか、自分の子供になるかのいずれかです。他方、自分の子供であることを主張しなければ、子供の命は助かります。
そして上記の偽物の母親の行動においては、偽物の母親は自分の子供であることを主張してくることが予想されるため、子供が生きていることを望む本物の母親にとっては、自分が母親であることを主張しないことが最適な行動になります。
(結果)
以上から、ソロモン王のジレンマについて、ゲーム理論的に考えると、
本物の母親 ⇒ 自分の子供ではないと主張する
偽物の母親 ⇒ 自分の子供であると主張する
となり、偽物の母親の手に子供が渡るころになります。
すなわち、ソロモン王が実現すべき本物の母親のもとに子供を渡すということは実現されず、逆の結果になってしまいます。
まとめ
ソロモン王の見事な裁定も、ゲーム理論的に考えれば正しくはなく、むしろ逆の状況をもたらしてしまいます。
そこで、2位価格オークションなどでは、裁定ルールを変更して、本物の母親に子供が手に入るような仕組みを考えられたりします。
参考
川越敏司『マーケット・デザイン』