後向き帰納法
ゲーム理論の展開型ゲームにおいては、後向き帰納法(バックワード・インダクション)で部分ゲーム完全均衡を求めることが多くあります。
展開型ゲームにおいては、いくつかものプレイヤーの手番があり、その結果、各プレイヤーの利得が決まるわけですが、後向き帰納法では、逆に、得られた利得を見て、できるだけ後ろのほうから、均衡を探していくという作業になります。
方法としては、次のようになります。
・他の部分ゲームを含まないような部分ゲームを選び、均衡となるような利得の組を選ぶ。
(なお、他の部分ゲームを含まないような部分ゲームを選ぶ必要があるので、後向きになるとも言えます)
・そこで得られた利得の組を切り取り、展開型ゲームを作り直す。
(より小さな「縮約ゲーム」を作る)
・上記を繰り返し、全体ゲームの均衡を求める。
ただ、このように書いても、イメージがつかないと思うので、具体的な例で、やり方を説明したいと思います。
例
例として、チェーンストア・ゲームを発展させた展開ゲームを考えるとします。
現在、B店が営業を行っているとし、利得4をあげているとします。
そこに、A店が参入をするかどうかを考えているとしましょう。A店が参入しなければ、そのままの状態ですが、A店が参入したとき、既存のB店は協調するか、対立するかを選択するとしましょう。A店の参入に対して、協調した場合には、A店とB店は利得を分け合う形になり、それぞれの利得は2となるとします。
更に、B店が対立したとき、A店はそれを受けて、対立したまま営業するか、撤退するかを選ぶとします。対立したままならば、両店が傷つき、それぞれの利得は-2になるとします。逆に、B店の対立を受け、A店は撤退した場合、双方は傷つきますが、A店は利得-1、B店は利得1になるとします。
以上をまとめると、次のような展開型ゲームになります。
求め方
まずは、このゲームについて、どのような部分ゲームがあるかを考えます。
そうすると、次のような部分ゲームがあることが分かります。
部分ゲーム1 … 最初のA店の手番から始まる部分ゲーム(なお、これは全体ゲームでもあります)
部分ゲーム2 … B店の手番から始まる部分ゲーム
部分ゲーム3 … 2回目のA店の手番による部分ゲーム
このうち、他の部分ゲームを含まないような部分ゲームは、部分ゲーム3です。部分ゲーム3では、A店が対立し続けるか、撤退するかの選択に迫られていますが、利得を考えると、A店が撤退するという選択肢を選ぶことになるので、両店の利得は(-1 , 1)となります。
この結果を受けて、ゲームを縮約すると、部分ゲーム1と部分ゲーム2だけの次のような形になります。
他の部分ゲームを含んでいないのは、部分ゲーム2なので、部分ゲーム2を見ると、B店は対立か協調かの選択を迫られています。それぞれの利得を見ると、協調のほうが利得が高く、B店は協調することなります。
この部分ゲーム2の結果を踏まえ、ゲームを縮約すると、次のようになります・
A店は参入するか、参入しないかを選ぶわけですが、参入しなければA店は利得はないため、A店は参入することになります。
以上から、A店は参入し、それを受けてB店は協調し、両店は利得2を受け取るというのが、部分ゲーム完全均衡になります。
参考
奥野正寛(編著)『ミクロ経済学』
岡田章『ゲーム理論・入門』