はじめに
環境問題を考えるにあたって、「炭素税」や「環境税」というものが政策として挙げられることがあります。
そして、その理論的な根拠として、「ピグー税」を元にしているという話があります。
ただ実際は、その考えは違っています。
理論的に言えば、
「ピグー税は現実には導入できない」
というのが、教科書的な回答です。
そして、導入できないものについて、具体的な政策になるというは、おかしな話でしょう。
なので、その違いについて、知っておくのは重要だと思うので、説明したいと思います。
炭素税・環境税
企業活動において、通常の利潤最大化を行うと、二酸化炭素の排出などの環境によくないことが行われる可能性があります。
その企業にとっては問題がなくても、他の経済主体や社会的によくないことを引き起こすになります。
そのような企業の行動を抑制するには、二酸化炭素の排出などの環境によくないことにペナルティを課すというのが、一つの考えでしょう。
そこで考えられるのが、「炭素税」や「環境税」です。
「炭素税」や「環境税」は、炭素や環境によくないことに対して、その排出量に応じて税金を課すというものです。
税金を課すことで、その企業にペナルティを課し、社会的にはよくない二酸化炭素などを抑制するということを目的としてます。
ピグー税
企業は、生産活動を行う上で、2つの費用があると考えます。
1つは「私的費用」で、その企業が生産活動を行う上で発生する費用です。
もう1つは「社会的費用」で、その企業の生産活動においては費用ではありませんが、他の経済主体(社会全体)に迷惑をかけるような費用です(いわゆる「外部不経済」です)。
このとき、何の規制・税金などがなければ、企業は私的費用だけを考えて生産を行います。
① 企業の費用 = 私的費用
しかし、他の経済主体(社会全体)に迷惑をかけているので、本来はその分の費用も企業は負担すべきです。言い方を変えれば、迷惑料も本来は企業は支払うべきです。
② 企業の費用 = 私的費用 + 社会的費用
そこで、ほっておけば、企業は①の私的費用だけしか負担しないので、政策的に社会的費用も含んだ形で、企業に負担を求める必要があり、それを税金で行おうというのが、ピグー税となります。
これを、②に当てはめれば、
社会的費用 = 税金
として、
③ 企業の費用 = 私的費用 + 税金
とするのが、ピグー税の発想です。
これにより、本来は負担すべき費用を、企業に課すことができ、社会的な配分が最適化されるということになります。
ところで、この「社会的費用」は計算可能でしょうか。1つの企業でもどのように計算したらいいか難しいのに、多くの企業がある中で、それを計算するのは不可能です。
なので、ピグー税は現実には導入は難しいというのが、その答えとなっています。
ポイント
炭素税・環境税とピグー税で似た部分は多くあります。
「二酸化炭素発生などの環境によくないことを抑制する」
「それを企業などに負担を課す」 など
ただ、上記から
炭素税・環境税 … 二酸化炭素排出量などの環境によくないこと(外部不経済)を極小化する
ピグー税 … 外部不経済について税金という仕組みを通じて、費用負担などの配分を是正する
という点で、違いがあるということです。
異なる言い方をすれば、
炭素税・環境税 … 外部不経済を少なくする・なくす
ピグー税 … 外部不経済があってもいいが、税金により、それを是正する
ということになり、違いがあります。
なので、ピグー税の根本的な問題である「どれだけ税金(社会的費用)をとったらいいの?」という点では解決はなされておらず、炭素税・環境税では取り過ぎという問題も生じる可能性もあります。
いずれにせよ、炭素税・環境税とピグー税は似ている部分は多くありますが、同時に、その根本的な考えに違いがあったりするので、注意が必要です。