はじめに
人間には、何らかの現象をコントロールしたいという欲求があるとされます。これは別に珍しい知見ではなく、当たり前と言えば、そうだと思われます。
例えば、騒音の中で、2つのグループが作業をしたとき、騒音を止めることが禁止されているととします。ただ1つのグループは、騒音を止めるスイッチを使うことが許されている場合、このグループのほうが作業効率が上がることが、実験で確認されているようです。
このように、自己決定権というべき、コントロールしたいという欲求は、人間に生来備わっているものなのでしょう。
コントロールの種類
コントロールには、次の5つがあるとされています。
①影響力を通じたコントロール
自分自身により、周囲に影響力を持ち、状況を支配したいというものです。
②予測を通じたコントロール
将来の展開を予想し、利益を得たとき、それが偶々であろうが、自身の予測能力の高さを通じ、コントロールしたいというものです。
③影響力のある要素の認識によるコントロール
ある事象について、それに重要な影響を与える要素がいくつもあるが、その要素を認識・コントロールできているというものです。
④事象の事後的説明
失敗を経験した人が、新たに発生する事象に対して、一度失敗したのだから、次は失敗をコントロールできるというものです。
⑤ネガティブな結果の過小評価によるコントロール
自身にとって、ネガティブな結果について、次へのステップと捉えるなど、いくつかの態度をとることができますが、その結果について、過小評価を行い、自身の心の負担を軽減し、コントロールの仕方を変えるというものです。
コントロールイリュージョン
以上のように、コントロールにはいくつかありますが、実際はコントロールできないもの・できていないものを、コントロールできる・できていると思い込む「コントロールイリュージョン」(コントロールの錯覚)があります。
例えば、「①影響力を通じたコントロール」では、組織のリーダーは自身の組織をコントロールできていると思うかもしれませんが、実際はできていないというものです。
「②予測を通じたコントロール」では、予測通りいったからと言って、偶々のラッキーで、予想が当たったにすぎないかもしれません。
「③影響力のある要素の認識によるコントロール」では、投資家はすべての株式指標・企業情報を把握はできませんし、把握できていると思っていても、実際はファンダメンタルズの企業の利益で投資の意思決定をおこなうというものです。
「④事象の事後的説明」は、事業に失敗続きの経営者が、次はこれまでの失敗を踏まえた対応をしたのだからといって、再び失敗をするといった場合でしょう。
「⑤ネガティブな結果の過小評価によるコントロール」によって、ネガティブな結果に対する今後の対応策などをかんがえなくなったりします。
参考
真壁昭夫『行動経済学入門』