はじめに
ナッジは、人々の選択をより良い方向に導くものとして、注目されています。
そのとき、どのように選択アーキテクチャーを設計するかが重要になります。選択アーキテクチャーの設計に失敗すれば、当然ながら、人々の選択を方向づけることはできないからです。
しかし実際に、選択アーキテクチャーを設計しようとすると、どのようにやったらいいか、どのような方法があるのかなど、悩むところです。
そのヒントとして、ナッジの提唱者であるセイラーは、選択アーキテクチャーについて、いくつかのツールがあるとしており、それらを紹介します。
選択アーキテクチャーのツール
セイラーによれば、次のような選択アーキテクチャーのツールがあるとされます。
【デフォルト】
デフォルトは、選択にあたっての初期状態の選択肢のことです。
初期状態にある選択肢を入れることで、人々は、惰性や現状維持バイアスなどから、その選択肢を選びやすくなります。
デフォルトは選択アーキテクチャーの中でも強力なので、デフォルトを使った例は世の中に多くあります。
どちらかと言えば、スラッジなのかもしれませんが、ネットサービスで「メール配信を受け取る」に初期値として、チェックが入っている場合です。
【フィードバック】
フィードバックは、ある状態になると、警告・メッセージなどを返す仕組みです。
作業を行っていて、ミスなどが発生しそうになると、警告アラートが発せられるというもので、メールを送るとき、タイトルが未入力だと警告が発せられるのは、これに該当します。車のライトをつけたままエンジンを切ると、アラームがなるなど、日常生活でも散見されるものとなっています。
【リマインダー】
フィードバックと似ていますが、うっかりミスや物忘れなどを防ぐためのものとして、リマインダーがあります。
例えば、Googleカレンダーに予定を入れておくと、その10分前などに、予定をアナウンスしてくれますが、この例と言えるでしょう。スマホにおけるSNSのプッシュ機能なども、このリマインダーの例と言えます。
【チェックリスト】
複数のことをやらなければならないとき、漏れが生じないようにするために使われるのが、チェックリストです。
会社で業務をするときに、チェックリストが使われたりもしますし、日常生活でも買い物リストといった形で、チェックリストが用いられています。
【マッピング】
選択肢が複数ある場合に、選択とその選択により得られる結果を対応させたものを、マッピングと言います。
このマッピングというものを理解し、仕組みを作ることで、人々は選択をしやすくなります。
例えば、いくつかあるサービスについて、比較表を用いるといったのは、この例に当たるでしょう。
【構造化】
選択肢が多くなると、人々は判断を単純化して選択を行うことになりますが、このような問題を避けるために、有用なのが構造化とされます。
構造化とは、選択肢を分かりやすい構造に整理して、人々に提示することです。
例えば、ネット販売において、あらゆる商品がある中、ジャンルや価格帯などで絞り込みや選択ができますが、これは、この構造化の例になるとされます。
【キュレーション】
キュレーションとは、特定の視点で情報を整理・まとめることです。
多くの情報がある中で、ある観点で、情報を絞り込むことで、人々は情報を手に入れやすくなります。
よくネットで「まとめサイト」がありますが、正しくこのキュレーションの良い例でしょう。
【スマート・ディスクロージャー】
スマート・ディスクロージャーとは、複雑な情報を、標準化された形式で公表し、人々がその情報に基づいて意思決定できるようにするというものです。
情報が開示されていても、それがうまく伝わらなければ、人々は適切な意思決定ができないからです。
参考
リチャード・セイラー、キャス・サンスティーン『NUDGE 実践 行動経済学 完全版』