概要
日本経済において、現在はコロナウィルスの蔓延で景気は良くない状態ですが、長期的には人口が減少する中、労働力不足が指摘されており、労働力としての高齢者の活躍が期待されています。
特に、かつての高齢者に比べると、現在の高齢者は若く活動的とも言われています。生涯現役とまでいかないにしても、高齢になっても、十分に働くことができる高齢者が増えていることもその一因に挙げられるでしょう。
ただ、昔に比べて元気な高齢者が増えたとはいえ、通常で考えれば、体力や知力などは、年齢が上がるほど落ちるというのは、一般的な考えとも言えます。
そこで、高齢者が労働力として増えた場合、経済の生産性にどのような影響があるのでしょうか。
これについて、一つの論文を見つけたので、その結果を書きたいと思います。
実証研究
小﨑敏男氏の『労働力不足の経済学』の中で調査が行われています。
推計式として、次のようなものです(元論文では技術進歩も入れていますが省略)。
$ ln(Y(t)) = C + a_1 ln(K(t)) + a_2 ln (L(t)) + e$
ここで、$ Y(t)$は産出量、$ K(t)$は資本ストック、$ L(t)$は労働投入量、$ e$は誤差項です。
この式を見ればわかるように、一般的なコブ=ダグラス型の生産関数を推計しています。ただ、年代別の生産性を見るため、$ L(t)$は年齢10歳区分の就業者数を用いています。
(複雑な推計ではないので単純と言えば単純ですが、それゆえ操作の余地がなく、信頼性があるといえるでしょう)
結果は、次の通りです。
決定係数:0.994、D.W.:1.95
定数 | 資本ストック | 労働(15~24歳) | 労働(25~34歳) | 労働(35~44歳) | 労働(45~54歳) | 労働(55~64歳) | 労働(65歳以上) |
---|---|---|---|---|---|---|---|
-16.532(-6.14)*** | 0.391(3.44)*** | 0.173(2.33)*** | 0.621(4.15)*** | 0.899(4.88)*** | 0.920(4.21)*** | 0.582(4.18)*** | -0.216(-2.41)*** |
※()内はt値、***は1%、**は5%、*は1%で有意
結果から、65歳以上の労働力においてのみ、係数がマイナスになっており、産出量にマイナスの影響になっているのが分かります(逆に、係数の数値を見ると、35歳~54歳の労働力が一番、産出量として大きくなることが分かります)。
マイナスというはかなりショックな結果で、65歳以上の高齢者が多く働くと、生産量は上がるどころか下がるということを意味しています。
この推計を信じる限り、高齢者はむしろ働かないほうが経済にとってはいいとも言えるでしょう。これはあまりに極論といえ、もっと細かな分析は必要でしょうが、高齢化は経済成長によくない影響を与えているが読み取れます。
参考
小﨑敏男『労働力不足の経済学』