概要
MMT(現代貨幣理論)を勉強しても、何だか分かったような分からないようなという感じがする人が多いと思います。
従来(主流派?)の経済学を学んだ人からすると、これまでの経済学とは違ったロジックが含まれており、理解が難しい面があるのかもしれません。
ただ何よりも、MMTの分かりにくさは、租税貨幣論や内生的貨幣供給理論など、いくつもの理論や考えがあり、部分的には分かるのですが、全体像や各理論のつながりが見えにくいからではないかと思います。
そこで、MMTに流れるベーシックな考えを整理し、全体像を概観したいと思います。そしてそうすることで、MMTの理解が深まるのではと思います。
前提
MMTにおいては、次の2つの前提があると思います。
[前提1] 政府と中央銀行は一体である
[前提2] 貨幣は、政府・金融機関などの債務である
[前提3] 貨幣量は実物経済の需給で決まる
[前提4] 政府は財政支出により、債務を負い、貨幣供給を行う
[前提5] 政府の政策は適切に行われる可能性はない
MMTの全体像
金融政策
従来の経済学においては、政府と中央銀行は別の経済主体であり、景気の安定化を図るという点では目標は一致していますが、ざっくり言うと、政府は実物経済の発展を、中央銀行は物価の安定を、主に政策目標としてきました。政策手段で言い換えると、政府は財政政策を、中央銀行は金融政策を担っているということになります。
そして、金融政策においては、貨幣量をコントールするか、利子率をコントロールするかにいずれかになります。
貨幣量
MMTにおいては、[前提2]より、政府と中央銀行は一体です。そして、[前提2]より貨幣は政府などの債務であり、[前提4]から貨幣量は財政支出により行われるため、貨幣量の問題は金融政策の問題ではないことになります。
とはいえ、[前提2]より、貨幣はいろいろな経済主体から供給され、[前提3]から、貨幣量は実物経済の需給で決まるため、貨幣量をコントロールすることはできません。
この結果、MMTにおいては、貨幣量を通じた金融政策は否定されます。
利子率
そうすると、政府は利子率を通じて、金融政策を行うことになります。ただ、利子率は貨幣量に影響を与えるものであり、[前提3]から、結局は貨幣量はコントールできません。
そして、[前提5]から、利子率については人為的ではなく、「自然利子率」が望ましいと考えます。
以上のことから、MMTにおいては、金融政策は否定的になります。
財政政策
上記のように、MMTでは金融政策は否定的なので、政府の役割としては、財政政策が基本となります。
従来の経済学においては、公共事業などで財政支出を行い、政府がお金を使い、景気の浮上を考えました。しかしそれでは、[前提5]から場当たり的であったり、その効果は間接的になります。
そこで、MMTでは、ルールを決めて、直接的に行うべきという形で考えます。一番の例が、政府が直接、労働者を雇用する「ジョブ・ギャランティ」などという方法です。
また、ジョブ・ギャランティは、失業者を減らすだけではなく、その賃金をコントールすることで、物価もコントールできることになります。丁寧に説明すれば、ジョブ・ギャランティによる賃金を高くすれば、民間企業の賃金も高くなり、それらの企業が提供する財・サービスの価格も上がるというわけです。
最後に
最後に、以上の点も含め、MMTのポイントを整理すると、次のような点になるかと思います。
・MMTは、政策志向的である
・金融政策は否定的で、財政政策を志向する
・ただ、政府の裁量はできるだけ排除
MMTについては是非はあるでしょうが、示唆的でもある考えだと思います。
参考
望月慎『MMT[現代貨幣理論]がよくわかる本』
井上智洋『MMT 現代貨幣理論とは何か』