はじめに
MMT(現代貨幣理論)においては、従来の経済学とは全く異なった考えや政策などが提唱されています。
この1つとして、MMTにおける失業・労働対策として、「ジョブ・ギャランティ」(Job Guarantee)というものがあります。
現在の日本の失業対策と言えば、職業斡旋(ハローワーク)や失業保険などが挙げられますが、MMTのジョブ・ギャランティでは全く異なるアプローチになります。
ジョブ・ギャランティ
ジョブ・ギャランティは、日本語に直すと「就業保証」であり、一言で言えば、
「政府が一定賃金の雇用を無制限に与えるというもの」
です。
政府が雇用を保証し、仕事を与えるので、この政策の下では、(摩擦的失業などは除いて)完全雇用が保証されることになります。
メリット
非自発的失業の排除
上記のように、政府が「無制限」に雇用を与えるので、非自発的失業はなくなります。
働きたくない・働けないといった人や求職中の人などには、雇用は保証されていませんが、少なくとも働きたいけど仕事がないという非自発的失業は排除できます。
なお、非自発的失業が抑えられるので、それに伴う需要の減少も防ぐことができます。
最低賃金の決定
ジョブ・ギャランティでは、雇用は保証されるのですが、賃金は最低限のものとされます。
なので、賃金などの条件について、民間のほうが良ければ、このジョブ・ギャランティを理由せず、民間企業に就職することになります。
また、最低限の賃金をジョブ・ギャランティを通じて、政府が決めることで、それ以下の賃金の民間企業で働くものはいなくなるので、最低賃金も規制することになります。
ジョブ・ギャランティの条件 < 民間企業の条件 ⇒ 民間企業に労働が移動
ジョブ・ギャランティの条件 > 民間企業の条件 ⇒ このような企業で働く者がいないので、民間企業は倒産
労働力水準の向上
現在の失業保険などの仕組みでは、現金給付は行われますが、技術訓練などは必ずしも受ける必要はありません。
そうすると、労働者が失業してしまうと、お金をもらうだけで、技術・スキルなどを学ぶことなく、むしろそれらは落ちていくことになります。
しかし、ジョブ・ギャランティでは、保証する雇用について、職業訓練のようなものを与えれば、失業者のスキルアップなどにつながります。
例えば、IT技術者が民間企業で少ない場合に、ジョブ・ギャランティでプログラミングの仕事を与えればいいということです。
これにより、労働力といった観点で、産業構造の変化にも対応できることになります。
まとめ
いいことづくめなような対策ですが、実際にどうなるかは何とも言えないでしょう。
そして少なくとも、ある程度は財政支出はいくらでも可能であるというMMTの根本的な考えに頭を切り替えなければ、実現は不可能と言えます。なぜなら、通常の経済学的な考えでは財政支出・財政負担が大きくなるという話になるからです。
ただ、MMTの重要な1つの考えとなっており、通常の経済学から考えても思考実験の1つ・従来にない考え方として、意味があると言えるのかもしれません。
参考
望月慎『MMT[現代貨幣理論]がよくわかる本』