はじめに
ミクロ経済学において、最初に学ぶのが「効用関数」です。
このとき出てくるのが、「基数効用」「序数効用」という言葉です。
ここでは、その2つの違いを説明したいと思います。
基数効用
基数効用(cardinal utility)とは、効用の水準が測定可能で数字で表すことができる効用でのことです。
例えば、ある財を消費すると効用が50で、別の財の消費すると効用が100といった具合です。
(例)財xについて、U(x)=50、財yについて、U(y)=100
基数効用の代表例としては、ノイマン・モルゲンシュテルン効用関数(期待効用関数)が挙げられます。
$ U(x,y) = \rho u(x) + (1- \rho ) u(y) \qquad (0 \lt \rho \lt 1)$
ここでの$ u(\cdot)$は、基数効用となっています。
序数効用
序数効用(ordinal utility)とは、効用の水準が比較できるだけの効用のことです。
例えば、2つの財を消費したとき、それぞれの効用について、比較できるというものです。
(例)財xと財yについて、U(x) > U(y)
ミクロ経済学をはじめ、一般的な経済学においては、効用が用いられます。
基数効用と序数効用の違いの例
考え方としては、上記の通りなのですが、違いのイメージが付きにくいかもしれませんので、例を示しています。
ここで、次の2つの効用関数$ U_1(x,y) \quad , \quad U_2(x,y) $を考えます。
$ U_1(x,y) = xy $
$ U_2(x,y) = xy + a $
このとき、2つの効用関数の違いはに$ a$がついているかどうかだけです。とはいえば、基数効用で考えれば、効用水準が異なってくるので、違う効用となります。しかし、序数効用では、$ x$と$ y$の関係は変わらないので、同じ効用ということができます(言い換えれば、無差別曲線は$ a$の分だけズレますが、同じ形状をしています)。
そもそも何でこんな話が出てくるのか
基数効用とか、序数効用とか、どうでもいいように思われます。
むしろ、効用の大小だけでいいという序数効用よりも、効用が数値化できる基数効用のほうが、直観的には理解しやすいように思います。
このため、経済学的には、基数効用をベースに議論が進められてきました。
それに異を唱えたのが、現在の経済学に多大な貢献をし、ノーベル経済学賞も受賞したヒックスです。
「どんな価値理論においても、「与えられた欲望」あるいは「与えられた嗜好」をもつ消費者とはまさしくどういう意味であるのかを定義しうることが必要である」
「われわれはただ消費者が諸財のある集りを他のものよりもむしろ選好するということを想定すれば足りるのであって、彼が前者を後者よりも五パーセントだけヨリ多く欲求するとか、あるいは何かこの種の立言にいやしくも意味があるものと想定する必要は毛頭ないのである」
『価値と資本』より
つまり、人間の欲望は定義づけることは難しく、定義づけたとしてもどうでもいいことだと考え、その選好の大小だけで十分だと考えたわけです。
確かに、欲望を数値化するのは難しく、数値化したとしても適当な値にならざるを得ないのでしょう。
例えば、リンゴを食べたときの効用は5、ミカンを食べたときの効用は40としたところで、何でリンゴを食べると効用は「5」という数字になるのかは説明できません。また、リンゴ・ミカンそれぞれを食べたときの「5」「40」の差は何でしょうか。
結局は、リンゴよりもミカンのほうが好きということが分かればいいわけです。
この意味において、納得のいく考えだと思われます。
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参考
奥野正寛(編著)『ミクロ経済学』
西村和雄『ミクロ経済学』
J.R.ヒックス『価値と資本(上)』