はじめに
ミクロ経済学の基本的なテーマの一つは、消費者の行動を分析することです。
そして、予算制約化の効用最大化問題として、消費者は、限られた資源を使って、自身の効用を最大化するかを考えます。
しかし、経済学の教科書や講義では、効用最大化問題を解いた後に、1階の条件(最適化条件)で話が終わってしまうように感じることがあるかもしれません。しかしここで、経済学の初心者は、疑問に思うかもしれません、
「消費者はどれだけの財がほしいのか?」
「消費者はどれだけの財を需要するのか?」
そこでここでは、効用最大化問題から、需要量の導出まで、一気に数式で説明します。
効用最大化問題
まずは、消費者は$x$財と$y$財の2財を消費し、それぞれの価格を$p_x \, , \, p_y$とします。
そして、効用を$u(x \, , \, y)$、予算を$E$とすると、
$u(x \, , \, y)$
$s.t. \quad p_x x + p_y y =E$
という問題を考えることになります。
この問題を解くと、次のような1階条件を得ることができます。
$\displaystyle \dfrac{u_x}{u_y}=\dfrac{p_x}{p_y}$
なお、この問題の解き方は、次を参考にしてください。
そしてここで、いったん、話が終わったように感じたりするかもしれません。
更に、需要量を求めるため、話を続けていきましょう。
需要量の導出
予算制約式に、1階条件を使って、$x \, , \, y$を消去し、整理すると、需要量が得られるはずです。
しかしここで、大きな問題があります。
1階条件の式には、$u_x \, , \, u_y$というものがあり、$x \, , \, y$がそれぞれに含まれているからです。丁寧に説明すると、
$u_x = \dfrac{\partial u(x \, , \,y)}{\partial x}$
$u_y = \dfrac{\partial u(x \, , \,y)}{\partial y}$
であり、予算制約式に$x \, , \, y$を代入することもできず、綺麗な式にもなりません。
「これは困ったことになった!」
ということですが、数学なので、次のような論法を使います。
$x$財について考えると、1階の条件から、$y = ?$という式を作れるはずです。そしてそれを、予算制約式に代入すれば、$x$の需要量が分かるはずです。すなわち、
1階条件 ⇒ $y = ?$ ⇒ 予算制約式に代入 ⇒ $x = ?$という式ができる
という論法です($y$財も同様)。
特に、方程式上は、消費者にとって、どうにもならない$p_x\, , \, p_y\, , \, E$で、$x$を表現できれば、消費者は$x \, , \, y$財の関係を考えることなく、$x$財の需要量が決まります。
言い方を変えれば、変数としては、$x \, , \, y\, , \, p_x\, , \, p_y\, , \, E$の5つがあるわけですが、この消費者にとっては、価格や予算は、どうにもなりません。しかし、財の量はコントールできます。
数学的に言えば、
外生変数:$p_x\, , \, p_y\, , \, E$
内生変数:$x \, , \, y$
というわけです。
そして、、外生変数を与えれば、内生変数も決まるという形にすれば、消費者の意思決定は完結します。
以上から、どんな関数化は分かりませんが、とりあえず、
外生変数 ⇒ 内生変数
という関係を作るため、需要量については、次のように式を定義します。
$x \equiv D^x(p_x\, , \, p_y\, , \, E)$
$y \equiv D^y(p_x\, , \, p_y\, , \, E)$
これで、予算制約下の効用最大化問題から、需要量を求めることができました(ちなみに、$D^x \, , \, D^y$はいわゆる「需要関数」です)。
「定義では導出になっていないのでは?」
「新たに、関数をつくっているだけでは?」
と思うかもしれません。
しかし、関数が特定できておらず、$x \, , \, y$を消去して、解くことができないのでどうしようもありません。
1階条件のポイント
ところで、
「定義をするならば、1階条件は意味があるの?」
と思うかもしれません。しかし、1階条件は、非常に重要です。
なぜなら、方程式が1つ増えるからです。
数学的に、ある変数について、解を求めようとすると、その変数の数以上の方程式が必要になります。
例えば、2つの変数があるときには、方程式が2つ以上ないと、その2つの変数については、解を求めることはできません。
予算制約下の効用最大化問題においては、目的関数の効用関数$u(x \, , \, y)$というものがありますが、実は式としては、予算制約式の$p_x x + p_y y =E$という1つの式しかなく、$x \, , \, y$について、解を求めることができない状態です。
しかし、1階条件を得ることで、方程式が2つになり、解を求めることができるようになります。
そして、解を求めるようになったということで、上記の需要量(需要関数)を得ることができます。
例
需要量を導出するのにあたり、分かりにくいのは、効用関数が特定されておらず、どうしても抽象的になってしまいがちだからだと思います。
そして、効用関数が特定されていないため、最終的には「定義」という荒業を使う必要が出てくるからでもあるでしょう。
そこで、効用関数について、次のような特定化した例で考えましょう(ちなみに、コブ・ダグラス型の効用関数となっています)。
$u(x \, , \, y) = x^\alpha y^\beta$
これの1階条件は、上記から、次のようになります。
$\dfrac{\alpha x^{\alpha – 1} y^\beta}{\beta x^{\alpha} y^{\beta – 1}} = \dfrac{p_x}{p_y}$
そして、これを整理すると、
$\dfrac{\alpha}{\beta} \cdot \dfrac{y}{x} = \dfrac{p_x}{p_y}$
となります。これで方程式が1つ増えたので、予算制約式にこの式を代入して、$y$を消去すると、
$x = \dfrac{1}{p_x} \left( E \, – \, p_y \dfrac{\beta}{\alpha} \cdot \dfrac{p_x}{p_y}x \right)$
であり整理すると、
$x = \dfrac{\alpha}{\alpha + \beta} \cdot \dfrac{E}{p_x}$
という形で、$x$財についての需要量(需要関数)を得ることができます。
同様に、$y$財についても求めると、次を得ることができます。
$y = \dfrac{\beta}{\alpha + \beta} \cdot \dfrac{E}{p_y}$
これらの式から、予算$E$が増えると、それぞれの需要量は増え、価格が上昇すると、需要量は減少することが分かります。
参考
奥野正寛(編著)『ミクロ経済学』
武隈愼一『ミクロ経済学』