はじめに
経済学において、CES型効用関数を使ったモデルが出てくることがあります。
特に、財のバラエティを表現するために使われることが多く、産業組織論・国際経済学・空間経済学でよく出てくると思われます。
ただ、式がもともとややこしい感じなので、計算が難しく感じることも多いでしょう。
そこで、CES型効用関数である場合の各種の式の導出について、説明します。
CES型効用関数
消費者の効用関数を$U$として、この消費者は$n$種類ある財を消費するものとします。個々の財を$x_i$とすると、離散型におけるCES型効用関数は、次のように定義されます。
$\displaystyle U = \left( \sum_{i=1}^n \alpha_i x_i^\rho \right)^{1/\rho} \quad \cdots \quad (1)$
ここで、$\rho$はパラメーターであり、$\alpha_i$は$i$財における消費者のウエイトです。
効用最大化
このモデルにおいては、財は$n$種類あるので、各財の価格を$p_i$、予算を$E$とすると、予算制約式は、次のようになります。
$\displaystyle \sum_{i=1}^n p_i x_i = E \quad \cdots \quad (2)$
この予算制約式のもと、消費者は効用最大化を図るため、ラグランジュ乗数を$\lambda$として、ラグランジュ関数$L$を、次のように定義します。
$\displaystyle L = \left( \sum_{i=1}^n \alpha_i x_i^\rho \right)^{1/\rho} + \lambda \left( E \; – \; \sum_{i=1}^n p_i x_i \right)$
この式について、$x_i$で微分して、$0$とすると、
$\displaystyle \dfrac{\rho \alpha_i x_i^{\rho-1}}{\rho} \left( \sum_{i=1}^n \alpha_i x_i^\rho \right)^{1/\rho – 1} \; – \; \lambda p_i = 0$
から、整理すると、
$\displaystyle \lambda = \dfrac{1}{p_i} \dfrac{\alpha_i x_i^{\rho-1}}{U^{1-\rho}}$
を得ることができます。
この式は$i$財だけではなく、$j$財($i \neq j$)でも得られるので、$\lambda$を消去・整理すると、
$\displaystyle \dfrac{\alpha_i}{\alpha_j} \left( \dfrac{x_i}{x_j} \right)^{\rho-1} = \dfrac{p_i}{p_j} \quad \cdots \quad (3)$
という効用最大化の1階条件を得ることができます。
需要関数
予算制約式$(2)$式と1階条件$(3)$式から、需要関数を求めるのですが、計算しやすいように、$(3)$式を変形すると、
$\displaystyle x_i = \left( \dfrac{p_i}{\alpha_i} \right)^{1/(\rho-1)} \left( \dfrac{\alpha_j}{p_j} \right)^{1/(\rho-1)} x_j$
となります。
ここで、議論を分かりやすくするため、$j=1$の場合を考えると、この式は、
$\displaystyle x_i = \left( \dfrac{p_i}{\alpha_i} \right)^{1/(\rho-1)} \left( \dfrac{\alpha_1}{p_1} \right)^{1/(\rho-1)} x_1$
となります。
これを予算制約式$(3)$式に代入すると、
$\displaystyle p_1 x_1 + \sum_{j=2}^n \left( \dfrac{p_j}{\alpha_j} \right)^{1/(\rho-1)} \left( \dfrac{\alpha_1}{p_1} \right)^{1/(\rho-1)} x_1 = E$
となります(左辺の第2項は$j=2$になっていることに注意)。
これを$x_1$について解くと
$\displaystyle x_1 = \dfrac{E}{\displaystyle p_1 + \sum_{j=2}^n \left( \dfrac{p_j}{\alpha_j} \right)^{1/(\rho-1)} \left( \dfrac{\alpha_1}{p_1} \right)^{1/(\rho-1)}}$
であり、この右辺の分子と分母に$\alpha_1/p_1^{1/(1-\rho)}$を掛けて整理すると、
$\displaystyle x_1 = \dfrac{E \left( \dfrac{\alpha_1}{p_1} \right)^{1/(1-\rho)}}{\displaystyle \sum_{j=1}^n \left( \dfrac{p_j}{\alpha_j} \right)^{1/(\rho-1)}}$
となります(分母の$p_1$の部分がきれいにsumにまとまるのがポイントです)。
これは、$j=1$以外でも成り立つので、
$\displaystyle x_i = \dfrac{E \left( \dfrac{\alpha_i}{p_i} \right)^{1/(1-\rho)}}{\displaystyle \sum_{j=1}^n \left( \dfrac{p_j}{\alpha_j} \right)^{1/(\rho-1)}} \quad \cdots \quad (4)$
という需要関数を導出することができます。
代替の弾力性
次に、代替の弾力性について、求めます。
代替の弾力性を$\sigma$とすると、次のように定義できます。
$\displaystyle \sigma \equiv \dfrac{d(x_i/x_j) / (x_i/x_j)}{d(p_i/p_j) / (p_i/p_j)} = \dfrac{d(x_i/x_j)}{d(p_i/p_j)} \cdot \dfrac{p_i/p_j}{x_i/x_j} \quad (i\neq j) \quad \cdots \quad (5)$
ここで、1階条件の$(3)$式について、全微分すると、
$\displaystyle \dfrac{\alpha_i}{\alpha_j} (\rho \, – \, 1) \left( \dfrac{x_i}{x_j} \right)^{\rho-2} d(x_i/x_j) = d(p_i/p_j)$
であり、変形すると、
$\displaystyle \dfrac{d(x_i/x_j)}{d(p_i/p_j)} = \dfrac{\alpha_j}{\alpha_i} \dfrac{1}{\rho \, – \, 1} \left( \dfrac{x_i}{x_j} \right)^{2-\rho}$
となります。そして、これと$(3)$式を$(5)$式に代入すると、
$\displaystyle \sigma = \dfrac{\alpha_j}{\alpha_i} \dfrac{1}{\rho \, – \, 1} \left( \dfrac{x_i}{x_j} \right)^{2-\rho} \cdot \dfrac{\alpha_i}{\alpha_j} \left( \dfrac{x_i}{x_j} \right)^{\rho-1} \cdot \dfrac{x_j}{x_i}$
から、
$\displaystyle \sigma = \dfrac{1}{\rho \, – \, 1} \quad \cdots \quad (6)$
となります。
代替の弾力性を用いた表現
$(6)$式から、1階条件や需要関数は、次のようにも表すことができます。
1階条件:$\displaystyle \dfrac{\alpha_i}{\alpha_j} \left( \dfrac{x_i}{x_j} \right)^{1/\sigma} = \dfrac{p_i}{p_j}$
需要関数:$\displaystyle x_i = \dfrac{E \left( \dfrac{\alpha_i}{p_i} \right)^{-\sigma}}{\displaystyle \sum_{j=1}^n \left( \dfrac{p_j}{\alpha_j} \right)^{\sigma}}$