戦略的操作
経済学においては、取引が行われるとき、取引を行う人は真の選好に基づいて、交換が行われるとされます。
しかし、真の選好に基づかず、嘘をついて取引を行ったとき、得をすることがあり、これを「戦略的操作」と言います。
何となく、直感的に理解できますが、通常の交換経済のモデルを用いて、この戦略的操作について、説明します。
交換モデル
通常の場合
例えば、プレイヤー1とプレイヤー2の2人がいるとして、財が$x$と$y$の2つある場合を考えましょう。
初期には、プレイヤー1は$x$を1、プレイヤー2は$y$を1、それぞれ持っているとします。プレイヤー$i$が持っている各財を$x_i \, y_i$とすると、
プレイヤー1:$x_1 = 1 \quad y_1 = 0$
プレイヤー2:$x_2 = 0 \quad y_2 = 1$
とします。
そして、各プレイヤーの効用関数$u_i$は同じであり、次のように仮定します。
$u_1 = \sqrt{x_1 \, y_1}$
$u_2 = \sqrt{x_2 \, y_2}$
このとき、取引が行われなければ、次のように計算でき、2人の効用は$0$です。
$u_1 = \sqrt{1 \times 0} = 0$
$u_2 = \sqrt{0 \times 1} = 0$
これを表で表すと、次のようになります
財x | 財y | 効用 | |
---|---|---|---|
プレイヤー1 | 1 | 0 | 0 |
プレイヤー2 | 0 | 1 | 0 |
ところで、この2人が財$x$と財$y$を交換する場合を考えましょう。
効用関数が同じなので、それぞれの財を半分ずつに分け合い、同じ量の財を持ち合うのが、良いでしょう。
これを表で表すと、次のようになります。
財x | 財y | 効用 | |
---|---|---|---|
プレイヤー1 | 1/2 | 1/2 | 1/2 |
プレイヤー2 | 1/2 | 1/2 | 1/2 |
これを見ると、各プレイヤーは、交換をしたほうが効用が高まることが分かります。
戦略的操作の場合
ところで、プレイヤー1の本当の効用関数は上記のとおりですが、次のように嘘の効用関数を表明したとします。
$u_1^f = 2 x_1 + y_1$
財$y$について、従前どおり、半分ずつに分け合うことになりますが、財$x$については、プレイヤー1の嘘の効用関数のもと、交換が行われるので、プレイヤー1はプレイヤー2に1/4を渡すことになります。
この結果、表としては、次のようになります。
財x | 財y | 真の効用 | |
---|---|---|---|
プレイヤー1 | 3/4 | 1/2 | $\sqrt{3/8}$ |
プレイヤー2 | 1/4 | 1/2 | $\sqrt{1/8}$ |
ここで注意すべきは、効用はあくまでも真の効用関数のもとで計算されます。なので、
$u_1 = \sqrt{3/4 \times 1/2} = \sqrt{3/8}$
$u_2 = \sqrt{1/4 \times 1/2} = \sqrt{1/8}$
となっています。
このことから、次のように、プレイヤー1は、真の効用関数を表明するよりも、嘘の効用関数を表明したほうが得になります。
$\sqrt{3/8} > 1/2$
まとめ
以上のように、戦略的操作が行われると、取引が行われても、不公平な取引になってしまいます。
メカニズム・デザインにおいては、オークションなどの取引について、分析していますが、戦略的操作があると、正しい取引が実現できないことになります。
このことから、メカニズム・デザインにおいては、このような戦略的操作が行われるかどうか、戦略的操作を排除できているかが重要となります。
参考
坂井豊貴・藤中裕二・若山琢磨『メカニズムデザイン:資源配分制度の設計とインセンティブ』
川越敏司『マーケット・デザイン』