板寄せ(コール・オークション)
板寄せとは、オークション方式の1つで、特定の時間に一度だけ、すべての注文をまとめて処理し、一斉に価格を決定し取引を成立させるものです。
方法としては、買い手と売り手が一斉に売買価格を提示します。そして、その提示された価格について、
①最も高い価格をつけた買い手と最も安い価格をつけた売り手の取引を成立させる
②2番目に高い価格をつけた買い手と2番目に安い価格をつけた売り手の取引を成立させる
③(以上を取引が成立し続けるまで、繰り返していく)
④最後に成立した取引について、買い手と売り手の提示した価格の中間を取引価格とする
⑤①~④で成立した取引すべてについて、④の取引価格で取引をさせる
というものです。
経済学のワルラスは、この板寄せに基づき、この需給がどのように一致していくかを考えました。
数値例
板寄せにより、どのように価格が決定するかを数値例で示したいと思います。
まずは、売り手と買い手がそれぞれ5人ずつおり、次のように価格を提示しているとします。
例えば、売り手Aは90でこの商品を売りたいと考えており、買い手Dは140でこの商品を買いたいと思っているといった具合です。
売り手 | 買い手 | |
---|---|---|
A | 90 | 110 |
B | 150 | 70 |
C | 120 | 120 |
D | 100 | 140 |
E | 130 | 100 |
これを元に、板寄せによって、価格を決めるため、売り手は安い順に、買い手は高い順に価格を並び替えます。
売り手 | 買い手 | 買い手の価格 – 売り手の価格 |
---|---|---|
90 | 140 | 50 |
100 | 120 | 20 |
120 | 110 | -10 |
130 | 100 | -30 |
150 | 70 | -80 |
売り手が売りたいと思っている価格よりも、買い手が欲しいと思っている価格のほうが低いときには、取引が成立しないので、
買い手の価格 - 売り手の価格 ≧ 0
のときのみ、取引が成立します。
上の表から、上から2つ目までで、取引が成立します。
そして、この2つ目の取引について、売り手100、買い手は120を提示しているので、その中間の110を取引価格として決定します。
利益としては、取引価格110のもと、売り手A・Dと買い手C・Dが利益を得ることができ、次のようになります。
売り手A:110 – 90 = 20
売り手D:110 – 100 = 10
買い手D:140 – 110 = 30
買い手C:120 – 110 = 10
参考(経済厚生)
上記のような利益から、経済厚生としては、次のようになります。
生産者余剰(売り手の利益):20 + 10 = 30
消費者余剰(買い手の利益):30 + 10 = 40
総余剰(生産者余剰+消費者余剰):30 + 40 = 70
ポイント
板寄せにおいては、次のようなポイントがあります。
1つは、売り手と買い手の提示する価格が一致していなくても、取引が成立し、取引価格を決定させることができます。
例えば、売り手と買い手の提示した価格が一致した場合のみを取引成立と認めると、上記の例では、
売り手Cと買い手Cが120で取引成立
売り手Dと買い手Eが100で取引成立
と2つの取引が成立することになります。ただしあくまでも例なので、売り手と買い手の価格が必ずしも一致するとは限らず、全く取引が成立しない可能性もあります。
2つは、多く価格が提示されても、1つの取引価格に情報をまとめることができます。
このため、株式市場の始値や終値においては、この板寄せが使用されています。
3つは、上記でも述べましたが、買い手の価格のほうが売り手の価格よりも高いとき、取引の成立を認めています。
買い手の価格 ≧ 売り手の価格
当然と言えば当然ですが、この正負が入れ替わるところで、取引が成立するか否かを決定するので、重要なポイントです。
4つは、決定された取引価格が、必ずしも市場均衡価格と一致しているとは限らない点に注意が必要です。
上記の例について、グラフを描くと、次のようになります。
何となく、110あたりで需要曲線と供給曲線が交わっているような感じですが、正確に計算すると、113.3が交点になります。
参考
川越敏司『マーケット・デザイン』
ロス・M・ミラー『実験経済学入門』