はじめに
国際経済学の新貿易理論や空間経済学(都市経済学)などでは、独占的競争モデルに基づいたモデルが出てきます。
このモデルでは、いくつもの企業がそれぞれ1種類の財を生産し、独占的に利益が最大になるように行動します。
(各企業は1種類の財のみを生産しているので、財の種類は企業数と一致することになります)
このとき、市場規模などと企業数(財のバラエティ)との関係を見ようとするのが、独占的競争モデルになります。
独占的競争モデル
経済においては、$n$社の企業が存在し、$L$人の労働者がいるとします。
各企業の利益
企業行動として、$i$企業($i = 1 \, , \quad \cdots \quad , \, n$)は、1種類の財$x_i$を生産するのですが、次のような式のもと、利益$\pi_i$を最大化します。
$\pi_i = p_i(x_i) \cdot x_i \, – \, w_i l_i \quad \cdots \quad (1)$
$p_i$は財$x_i$の価格で、$w_i$は賃金、$l_i$は労働力であり、この企業は労働力のみを用いて、生産を行います。
各企業の費用
ここで、この企業は、生産にあたり固定費用$f$は発生し、生産にあたって単位費用$c$がかかるとして、労働需要$l_i$は、次のように仮定します。
$l_i = f + c x_i \quad \cdots \quad (2)$
この式においては、平均費用を求めると、
$\dfrac{l_i}{x_i} = \dfrac{f}{x_i} + c$
から、この費用関数では、生産量が多いほど、固定費が減少するので、この企業全体として、規模に関して収穫逓増の構造をもっていることになります。
各企業の利益最大化
以上の$(1)(2)$式から、企業は、
$\pi_i = p_i(x_i) \cdot x_i \, – \, w_i (f + c x_i) \quad \cdots \quad (3)$
を最大化するので、$x_i$で微分して、$0$とすると、
$\dfrac{\partial \pi_i}{\partial x_i} = p’_i x_i + p_i \, – \, c w_i = 0$
であり、
$p’_i x_i + p_i = c w_i \quad \cdots \quad (4)$
を得ることができます。
各企業の価格
ここで、各企業で需要の価格弾力性は等しいとして、需要の価格弾力性を$\sigma$とすると、
$\sigma = – \, \dfrac{\partial x_i / x_i}{\partial p_i / p_i} = – \, \dfrac{1}{p’_i} \cdot \dfrac{p_i}{x_i} $
となります。
これを$(4)$式に使うと、
$p_i = \dfrac{\sigma}{\sigma \, – \, 1} \cdot c w_i$
を得ることができます。
この式から、単位費用$c$や賃金$w_i$が上昇すると、価格も上昇することが分かります。
自由参入
市場において、企業が自由に参入できるとすると、各企業の利益は$0$になるので、$(3)$式において、
$\pi_i = p_i(x_i) \cdot x_i \, – \, w_i (f + c x_i) = 0 \quad \cdots \quad (5)$
となります。
各企業の労働需要
$(5)$式について、$(4)$式を代入すると、
$\dfrac{\sigma}{\sigma \, – \, 1} \cdot c w_i x_i \, – \, w_i (f + c x_i) = 0$
であり、整理すると、
$x_i = \dfrac{f}{c}(\sigma \, – \, 1)$
となり、$i$企業の生産量を得ることができます。
これを$(2)$式に代入すると、$i$企業の労働需要は、次のようになります。
$l_i = f + c x_i = f + c \cdot \dfrac{f}{c}(\sigma \, – \, 1) = f \sigma \quad \cdots \quad (6)$
労働市場均衡
ところで、労働市場においては、この経済には$L$人の労働者がおり、各企業は労働力$l_i$を需要しています。
労働市場において、労働力が均衡すると、この経済には$n$社あるので、
$L = n l_i$
となります。
これに、$(6)$式を代入すると、
$L = n f \sigma$
であり、
$n = \dfrac{L}{f \sigma} \quad \cdots \quad (7)$
を得ることができます。
比較静学
以上において、$(7)$式を導出できましたが、この式について、比較静学を行いましょう。
まずは、経済における労働力は$L$ですが、この$L$はこの経済における経済規模も表しています。
そして、$(7)$式から、労働力(人口)が増えると、企業数(財のバラエティ)が増えることが分かります。
$\dfrac{\partial n}{\partial L} = \dfrac{1}{f \sigma} > 0$
これは、このモデルの大きな特徴で、他のモデルであれば経済規模が増加すれば、企業の生産量が増えるなどといった形になるのですが、このモデルでは経済規模の増減が、企業数(財のバラエティ)の増減に反映されるという形になっています。
次に、固定費用$f$について考えると、固定費用が大きいほど、企業の参入が阻害され、企業数は減少します。
$\dfrac{\partial n}{\partial f} = \dfrac{- \, L}{f^2 \sigma} < 0$
最後に、弾力性が大きいほど、企業の数は減少することになります。
$\dfrac{\partial n}{\partial f} = \dfrac{- \, L}{f \sigma^2} < 0$
参考
佐藤泰裕・田渕隆俊・山本和博『空間経済学』
ポール・ クルーグマン『脱「国境」の経済学』
小田正雄『現代国際経済学』