はじめに
ミクロ経済学を学ぶと最初のほうに出てくるのは、限界効用という概念です。
限界効用とは、1単位の消費量が増加したときの効用の増加分とされ、効用関数を$u(x)$とすると、
$\dfrac{\partial u(x)}{\partial x}$
で表されます。
何となくは意味は分かりますし、とりあえず数式を解いたら出てくるといった感じで、あまり意識をすることはないかもしれません。
しかし、経済学史を見ると、この限界効用については深い意味があります。
限界革命
1870年代に、次の3人が独立して発表された新しい価値の理論を、「限界革命」と言います。
・レオン・ワルラス(フランス)
・スタンリー・ジェヴォンズ(イギリス)
・カール・メンガー(オーストリア)
これらの経済学者はそれぞれ違う理論を打ち出していますが、いずれにおいても、「限界」という概念を持ち込んでいます。
現在の経済学では当たり前の「限界」という概念ですが、それまではほとんどこのような概念を打ち出す経済学者はいない中で、この三人が「限界」という概念を持ち出したことで、革命と呼ばれています。
ところでなぜ、このような概念が登場したのでしょうか。
三人の理論で全く違いますが、ざっくり言うと、次のようなもと、生み出されたものです。
経済学において、財の価値とはどのようなものであるかが重要とされてきました。そして、財を生産するのに投じられた労働力が価値の源泉であるとして、労働価値説などがありました。
しかし、「水とダイヤモンドのパラドックス」のように、労働価値説などでは説明できない現象があります。
そこで持ち込まれたのが、「効用」という概念です。人間の満足度を測る「効用」を持ち込むことで、これまでは財には客観的な価値があるとしてきたものを、個々人の主観的な判断で価値を測ることができると考えました。
いくつもの種類がある財について、個々人の満足度が違い、財を消費すればするほど、効用は高まる。全く変な定義ではありません。
ただ、そこに財の価値を結びつけるのは、少し厄介です。
なぜなら、財の消費が少ないときは効用は高いでしょうが、財の消費が増えていくと、効用の増加は逓減すると考えられるからです。そうすると、個々人が感じる財の価値は、消費量の応じて、変わってくることになります。
ここで、消費者が取引を行うことを考えましょう。
効用を最大化する人間にとって、効用が逓減する中で、これ以上効用は増えない最後の財の量までで購入することが相応しい行動と言えます。違う言い方をすれば、財をもっていたときに、これ以上効用が増えない最後の財は、もう余った財はその人にとっては不要なので、他の人に譲り渡したほうがいいでしょう。
効用自体は個々人の内心の問題ですが、これ以上効用は増えない最後の財について、購入や売却を考えれば、それがその人にとっての価値と、財の価値と言えるでしょう。
売買の価値なので、それはまさしく財の価格なので、
限界効用 = 価格
ということになります。
すなわち、これまでは労働価値説などのような形でしか、価値を考えることができませんでしたが、この限界革命で、限界効用自体が財の価値を示しているということが言われたわけです。
言い換えれば、限界効用自体がその人が思っている財の価値ということになります。