概要
グラミン銀行(Grameen Bank)とは、バングラディシュの農村地域で行われている小口金融・マイクロファイナンスです。
貧困に喘いでいるバングラディシュの農村地域の女性に対して、100ドル前後の少額の事業資金を貸し付けるというものです。ただ、借入にあたっては、5人1組のグループを形成し、もし返済できなければ、他のメンバーは融資を受けられなくなるという仕組みになっています。
これにより、従来は借入を受けられなかった女性たちが資金調達し、それを農業に使い、貧困からの脱出ができたとされています。また、グループに対して連帯責任を課すことで、平均返済率は100%となっており、農村での小口金融の成功例と言われています。
この銀行を創設したムハマド・ユヌス氏は、この取り組みが評価され、2006年にノーベル平和賞を受賞しました。
ポイント
この事例はそれ自体素晴らしいといえるのですが、次のような前提やポイントがあります。
①農村金融の特性
途上国などの農村においては、民間金融サービスは供給されにくいという特徴があります。
このような地域の人々は貧困に陥っていることが多いので、金融機関が貸付けを行っても、しっかりと返済してくれるのかという問題があります。
それでも貸付を行い、もし返済が滞った場合、金融機関としてはその貸付を回収することが難しい面もあります。農地などを担保にとっても、金融機関としては処分・換金が難しいからです。農地自体の資産価値も乏しく、周辺の農民に買い取ってもらおうとしても、地域全体が貧困であるため、買取資金はありません。また、農業を行っていて返済が滞ったにもかかわらず、職業としては農業しかないことも多く、他の職業に就業し返済資金を捻出するということも難しい点もあります。日本ならば、農業で稼ぐことができなくても、低賃金ですが他でバイトするなどして、稼ぐ道はありますが、途上国の農村ではそのようなことはできません。
そもそも、農業という業種自体、天候などに左右されるため、リスクの高い業種とも言えます。
それゆえ、農村においては、民間金融サービスは供給されにくいという問題があり、このような問題にグラミン銀行は取り組んだという点で、重要な事例でしょう。
②連帯責任
単純に貸し付けを実施した場合、意図的に返済を放棄するというインセンティブが働きます。
そこで、このようなインセンティブをなくし、借り手責任を負ってもらう仕組みが必要になります。
このような仕組みとしては、担保をとるということが考えられますが、上記のように、農村地域では金融機関は担保を取りにくい面があります。
そこで、債権放棄のインセンティブをなくすため、グラミン銀行では連帯責任とすることで、返済率の向上を図っています。
③仕組み化
農村地域では、古くから、知人からの借り入れなど、インフォーマルな資金調達はありました。金融機関などはなくとも、借入を行うことはできたということです。ただそれでは、貸し手としてはデフォルトの危険性があったり、借り手・貸し手双方にとって、ルールが不明確な面があります。また、貸し手は地域内で人たちなので、それらの人たちがどれだけ資金があるかで、その供給量は決まってしまいます。
グラミン銀行では、これらの問題を避けながら、一定のルールを設け、それらを仕組み化した点にポイントがあるでしょう。
④人的保証の是非
上記のように、「連帯責任」は返済率の向上を図る上で、重要な仕組みと言えます。
半面、借主とは無関係な人たちに責任を負ってもらうという点で、古めかしい仕組みともいえるでしょう。
農村地域内で信用がなければ、グループを形成することができず、資金調達はできません。もし返済ができないとなれば、それ以降の借入は期待できず、最悪の場合、村八分になるでしょう。
特に、国家が近代化するにあたり、個人をベースとした仕組みが求められる中、借入人以外の第三者が責任を負うことは問題ともいえます。現在の日本においては、他の人や会社の借入に対して「個人保証」を行うことは問題視されています。グラミン銀行では、このような保証を積極的に活用している点で、途上国ならではの仕組みであり、現在の日本のような国では、むしろ問題視されるような仕組みになっていることは忘れてはいけないでしょう。
参考
高木保興『開発経済学の新展開』