小林佳世子氏の『最後通牒ゲームの謎』という本を読みました。
このタイトルを見た瞬間、ゲーム理論や行動経済学に詳しくない人には一体どんな内容の本なのか、なかなか想像しにくいと思います。
一方で、既にこの分野に詳しい人にとっては、テーマがあまりにも限定的と思われるかもしれません。
小林佳世子『最後通牒ゲームの謎』
こうした点から、いずれの層にとっても手に取りにくい本だと感じられるかもしれません。
しかし、実際に本を開いてみると、その先入観は完全に覆されます。
この本は初心者向けの解説書でありながら、通常の行動経済学の本とは一線を画しています。
一般的な初心者向けの行動経済学の本では、多くの場合、「双曲割引」や「プロスペクト理論」「フレーミング効果」など、さまざまなテーマが網羅的に取り扱われています。これらの理論は、行動経済学の基礎として重要なもので、それらを順序立てて幅広く紹介するスタイルをとるのは当然ともいえるでしょう。しかしそれゆえどうしても、初心者にも薄く感じることが多くあるのではないでしょうか。
それに対して『最後通牒ゲームの謎』は、特定の実験に焦点を絞り、そこから人間の心理や社会的な行動の本質に迫っていくというユニークなアプローチをとっています。
中心となる「最後通牒ゲーム」という実験は非常にシンプルで、二人のプレイヤーが参加するものです。一人が一定額の金銭を持ち、その一部をもう一人に渡すかどうかを決め、相手はそれを受け取るか拒否するかを選びます。
合理的に考えれば、どんな少額でも相手が受け取るべきですが、実際の実験では多くの人が不合理な決定を下すことが明らかになっています。
ここに人間の行動の面白さがあり、合理性だけでは説明できない複雑な感情が絡んでいることが浮かび上がります。
(詳しくは、最後通牒ゲームについては、「最後通牒ゲームについて」あたりも見てください)
この本では、最後通牒ゲームをベースにしたさまざまな研究結果が紹介されています。
例えば、匿名性のある場合や、第三者がそのやり取りを観察している場合など、状況が変わることでプレイヤーの行動も変化します。
ある実験では、誰にも見られていない状況下ではお金を独り占めしやすくなり、一方で見られている状況下ではより公平な分配をしようとする傾向が強まることが示されています。
こうした結果は、私たちが他者の目を意識することが行動に与える影響を物語っており、人間の心理の奥深さを感じます。
更に、興味深いのは、「負の利他性」と呼ばれる現象についての議論です。これは、相手に損害を与えるためならば、自分自身も損をいとわないという行動を指します。この行動は直感的には非合理的に見えますが、特定の状況下ではこうした行動がよく見られます。
例えば、不公平感を抱いたときには、こうした行動を引き起こすことがあり、この本ではそれに関連する実験結果も紹介されています。人間は時として合理的な利己心を超えて、感情や倫理観に基づいた行動をとることがわかります。
また、裏切り者は許されないといった例も紹介されており、人間が社会的な存在であることも紹介されています。
最後に、この本は行動経済学の専門的な知識を持っていない読者にも楽しんでもらえる構成になっています。
最後通牒ゲームという一つの実験を通して、人間心理の多様性や奥深さ、そして社会的な行動のメカニズムが分かるように形になって慰安す。
通常の行動経済学の入門書とは違い、実験の結果やその解釈を中心に、人間の本質に迫る内容となっているため、行動経済学に少しでも関心がある方にとっては、非常に有益な一冊です。興味を持たれたからは、一度、読んで見られたら良いのではないでしょうか。